手紙やはがきの宛名につける敬称は、送る相手に対して敬意を表すもの。
敬称を正しく使い分けできなければ、手紙を送る相手に失礼になってしまいます。
個人に宛てるときや、複数の人に宛てるとき、組織に宛てるときなど、それぞれの場面に応じて正しく敬称を使い分けできるよう、解説していきます。
目次
1.個人に宛てるときは「様」
手紙を送る相手が個人の場合は、「様」を使用します。様は、相手の年齢・性別・社会的地位に関わらず、広く一般的に使われる敬称です。相手が目上・目下・社外の人に限らずオールマイティに使用できます。
上記の(1)の「苗字+名前+様」が基本的な使い方です。注意しないといけないのは(2)です。組織に所属する人に宛てる手紙の敬称を、間違って「御中」にしてしまいがちですが、正しい敬称は「様」です。
「様」と「御中」の正しい使い分けを理解しましょう。
「様」と「殿」の違い
個人に宛てる一般的な敬称は、「様」の他には、「殿」があります。
殿は、官公庁などが発行する公的文書や、表彰状を授与する氏名につけられる敬称であり、人名や職名などにつけてその人に対する敬意を表す接尾語です。話し言葉ではほとんど使われず、手紙や文書などの書き言葉で主に使用されています。
殿は、本来目上の人が目下の人に対して使う言葉のため、官公庁でも使用されることが少なくなっており、「様」を用いることが増えています。そのため、ビジネス文書や公的文書では「様」で統一するのが無難でしょう。
2.特定の職業に就く人に宛てるときは「先生」
手紙を送る相手が教育関係者や士業など、特定の職業に就いている個人の場合、敬称は「先生」を使用します。以下の職に就く人に宛てる手紙は先生を使いましょう。
「先生」の敬称を使う人の職業
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使い方の例を以下に記載します。
「先生」を使うときの注意点は以下の2点です。
「先生様」は二重敬語なのでNG
「先生」も「様」も敬称です。敬称を続けて記入すると二重敬語となってしまい、誤りです。名前のあとに「先生」をつけたら、「様」は不要。マナー違反にならないよう、注意しましょう。
「先生」の代わりに「様」も使用可能
相手が特定の職に就く個人だとしても、無理に敬称を先生にする必要はありません。相手の立場や関係性に応じて使い分けをします。
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上記の例の「様」の敬称を「先生」にかえても使用できます。「先生様」にならないようにだけ、注意しましょう。
3.組織・団体に宛てるときは「御中」
「御中(おんちゅう)」は、会社・学校・役所・病院など、組織や団体に対して使われる敬称です。
上記以外の御中を使った例を以下に記載します。
会社に宛てるとき
- 株式会社山田 御中
- 佐藤株式会社 御中
部署に宛てるとき
- 株式会社山田 営業部 御中
- 佐藤株式会社 総務部 御中
課に宛てるとき
- 株式会社山田 営業企画部 二課 御中
- 佐藤株式会社 人事総務部 人事課 御中
税理士事務所・会計事務所に宛てるとき
- 田中税理士事務所 御中
- 鈴木会計事務所 御中
病院・医療法人・クリニックに宛てるとき
- 山田病院 御中
- 医療法人山田会 東京診療所 御中
- 鈴木クリニック 御中
大学に宛てるとき
- 東京大学 御中
- 大阪大学 文学部 御中
- 慶應義塾大学 法学部 政治学科 御中
組織・団体に送るときはもちろん、部署や課などに送るときも「社名(団体名)+部署名+課名+御中」のルールで使用します。「様」を用いたり、「御中様」の二重敬語の表現は間違いです。注意しましょう。
4.組織・団体に所属する人に宛てるときは「様」
企業などの組織や団体に所属する人に手紙や文書を送るときの敬称は、「様」を使用します。
宛名を書く正式な順番は以下の通りです。
- 組織・団体名
- 部署名
- 課名
- 役職名(肩書き)
- 氏名(苗字・名前)
- 様(敬称)
組織に所属する人に宛てるときの正しい書き方
組織に所属する社員や社長宛てに書くときは、一列目に「組織名・部署名・課名」を書き、二列目に「役職名(肩書き)・氏名・様」と縦書きで記入します。例を以下に記載します。
- 株式会社山田 営業部二課
部長 田中 太郎 様 - 株式会社鈴木
代表取締役 鈴木 太郎 様 - 株式会社田中 総務部
山田 一郎 様
相手の苗字しか分からないときは「山田様」「田中様」のように書くこともありますが、正式にはフルネームで書くことがマナーだと心得ておきましょう。
間違いやすい敬称の表現
敬称を重ねてつける表現は、二重敬語になってしまうため、誤りです。宛名だけでなく、文中の表現には気をつけないといけません。正しい書き方と間違い表現を以下に記載します。
正しい敬称の書き方
- 田中課長(氏名+役職名)
- 部長様(役職名+敬称)
- 営業課長殿(役職名+敬称)
間違った敬称の書き方
- 山田課長様(氏名+役職名+敬称)
- 田中部長殿(氏名+役職名+敬称)
氏名のあとに接尾語として役職名(肩書き)をつける場合は、役職名自体が敬称となるため、「様」を重ねてつけると二重敬語になってしまいます。ですが氏名をつけず、役職名を単独で使用する場合は、役職名自体が名詞となるため、そのあとで「様」を置いても間違いではありません。総務部長様や課長様という表現も使用できます。
5.複数を対象にするときは「各位」
「各位(かくい)」は、複数の個人を対象とする場合に使われる敬称で、ビジネス文書や案内状などのお知らせ文書で使用されます。各位を用いた使用例をご紹介します。
- 関係者各位
- 会員各位
- 社員各位
- お客様各位
- 取引先各位
- 株主各位
- 保護者各位
厳密にいうと「お客様各位」は二重敬語の表現のため、間違いです。正しい表現は「お客各位」ですが、この書き方だと、相手に敬意を表していない不自然な呼び方に聞こえることから、社会的に許容された表現として「お客様各位」でも差し支えありません。
明らかな間違い表現は以下の通りです。
- 各位様
- 各位御中
- 各位殿
各位は敬称のため、そのあとに「様」や「御中」などの敬称を重ねて使用すると二重敬語になってしまいます。「お客様各位」の慣例的な表現と、マナー違反になる表現の違いを間違えないよう、注意しましょう。
6.受取人と世帯主が違うときは「様方」
手紙やはがきを送付するとき、その郵便物を受け取る「受取人の苗字」と、宛名に記載する住所の「世帯主」が異なる場合があります。その際、世帯主に対しては「様方(さまかた)」の敬称を使用します。
例えば、個人宅に下宿している友人に対して手紙を書く場合は、下宿先の世帯主に「様方」、友人に「様」の敬称を用います。そのほかにも居候や、結婚して苗字が変わった妻が里帰り出産で実家へ帰省する場合など、一時的に別世帯の住所に身を置くときに使います。
文字の大きさは「受取人の宛名>様方の宛名」
様方の宛名を書くときは、受取人の宛名よりも少し小さい文字で書きます。住所と受取人の文字のサイズの中間くらいの大きさにしましょう。間違って連名にするときと同じ大きさの文字で隣り合わせに書いてしまってはいけません。あくまで送付先は受取人であり、様方を用いる世帯主は、住所の一部ととらえます。
文字の高さは「住所>様方の宛名>受取人の宛名」
最も高い位置から書き始めるのは、住所です。そこから一文字ほど下げた位置から様方の宛名、受取人の宛名を書くと、バランスが良くなります。
使用例(1)結婚して苗字が変わった妻が里帰りしている時の宛名
〒123-4567 東京都中央区〇〇1-2-3 山田 太郎 様方 ←世帯主(実家) 田中 花子 様 ←手紙の受取人(妻) |
実家だから直接妻(田中花子さん)に手紙を宛てても大丈夫だろうと、様方を用いないケースもあると思いますが、上記のように、まずは世帯主に対して手紙を出し、世帯主を介して妻の田中さんに送るのが正式な手紙の送り方です。
使用例(2)他人の家庭に居候している友人の宛名
〒123-4567 東京都港区〇〇1-2-3 鈴木 太郎 様方 ←居候先 田中 一郎 様 ←手紙の受取人(友人) |
「様方」と「様」の敬称を正しく使い分けできるよう、あなたの身の回りで上記のようなケースに当てはまる人を思い浮かべて、宛名を書いてみましょう。
7.無所属の企業を経由して、個人に送るときは「気付・様」
送付先住所に所属していない相手に対して、企業や団体を経由して、受取人(個人)に手紙を送りたいときは、「気付(きづけ)」の敬称を使用します。例えば、会社の同僚が出張などで大阪のビジネスホテルに滞在しているとします。そのときに手紙や文書を送る場合、会社(ビジネスホテル)名のあとに「気付」、同僚の氏名のあとに「様」を使用します。気付の使用例を見ていきましょう。
使用例(1)入院している山田さんに書類を送るとき
〒123-4567 東京都新宿区〇〇1-2-3 〇〇中央病院 気付 山田 太郎 様 |
〇〇中央病院を介して、山田太郎さんに手紙を送るときは上記の例の書き方をします。いきなり手紙を送りつけるのは、不躾な行為と捉えられてしまうこともあります。手紙を送る前に、入院先の病院へ電話連絡を入れる配慮をすることもマナーです。
使用例(2)宿泊施設を介して田中さんに文書を送るとき
〒123-4567 東京都千代田区〇〇1-2-3 ビジネスホテル山田 気付 田中 一郎 様 |
ビジネスホテル山田に宿泊している田中一郎さんに文書や荷物を届けたいときは、上記のように宛名を記入します。
使用例(3)企業の一室を一時的に間借りしている佐藤さんに書類を送るとき
〒123-4567 東京都渋谷区〇〇1-2-3 株式会社山田 気付 株式会社田中 営業部 課長 佐藤 太郎 様 |
株式会社山田を一時的に間借りしている、株式会社田中の佐藤さんに書類を送るときは、上記のように書きます。佐藤さんが所属している部署名、役職名(肩書き)についても省略することなく記入しましょう。
8.企業を経由して、別の企業に送るときは「気付・御中」
送付先住所の企業に所属していない相手に対して、その企業の住所を経由して文書や荷物を送りたいときは、「気付」と「御中」を使用します。
書くときの順番は「送付先住所、企業名(部署・課)、気付、受取先の企業、御中」です。使用例をご紹介します。
使用例:企業の一室を間借りしている山田株式会社に荷物を送るとき
〒123-4567 東京都中央区〇〇1-2-3 株式会社田中 気付 ←間借りさせている企業 山田株式会社 御中 ←荷物を送る相手 |
株式会社田中を介して山田株式会社に荷物を送るときは、上記の宛名の書き方をします。