秋が去って、冬の訪れを感じる11月の時候の挨拶を上旬・中旬・下旬のそれぞれの時期に適した時候の挨拶をご紹介します。
かしこまった表現とやわらいだ表現の例文を、季節の挨拶にふさわしい季語の解説とともに記載しているので、チェックしてくださいね。
目次
11月の時候の挨拶を書く前に理解すべき2つのこと
時候の挨拶を書く前に理解しておくべき2つのポイントからお伝えします。
手紙の送付日によって「書き出し」がかわる
厳しい冬の寒い時期に「陽春の候」や「春爛漫の候」といった春の挨拶をつかうと不自然なように、時候の挨拶は、手紙を出す時期の季節感に合わせることが大切です。手紙を送付する日が、二十四節気(太陰太陽暦)や旧暦のいつ頃かによって、時候の挨拶もかわるため、まずは手紙を出す日が11月のいつ頃になるかを確認しましょう。その日が、以下に記載している二十四節気のどの時期に当てはまるかを理解してくださいね。
- 霜降(そうこう):10月23日頃~11月6日頃
- 立冬(りっとう):11月7日頃~11月21日頃
- 小雪(しょうせつ):11月22日頃~12月6日頃
※二十四節気の移り変わる時期を「頃」としているのは、その年によって季節感が異なるためです。
11月の季語を入れる
時候の挨拶は、季節や天候に応じた心情や季節感を表す言葉のこと。手紙に季語を入れると、文章が趣深くなります。書くときの参考になる、11月の季語をご紹介します。
- 動物:鳶(とんび)・鷲(わし)・鷹(たか)・隼(はやぶさ)・百舌鳥(もず)
- 植物:山茶花(さざんか)・菊・つわぶき・茶の花・八手の花・千両・万両・藪柑子(やぶこうじ)・ポインセチア・アンスリウム・白菜・大根
- 風物:文化祭・酉の市・七五三祝い・落ち葉たき・木枯らし・小春日和・時雨・菊花展
続いては11月に適した時候の挨拶と例文を、手紙を送る時期や相手との関係性別に見ていきましょう。
改まった手紙に適した「漢語調」の時候の挨拶・書き出し
漢語調の時候の挨拶は、ビジネス文書を書くときや、かしこまった表現を用いるときに適しています。
霜降:11月上旬(11月6日頃まで)の時候の挨拶
11月上旬は、二十四節気のうち、霜降(10月23日頃~11月6日頃)の時候の挨拶を用います。以下の表に読み方や意味についてまとめました。
時候の挨拶 | 読み方 | 意味・由来 |
晩秋の候 | ばんしゅうのこう | 秋の終わりが近づく今日この頃 |
錦秋の候 | きんしゅうのこう | 秋が深まり紅葉が錦のように美しいこの季節 |
深秋の候 | しんしゅうのこう | 秋が深まるこの季節 |
暮秋の候 | ぼしゅうのこう | 秋の終わりを迎える今日この頃 |
霜降の候 | そうこうのこう | 露が霜となって降り始める季節 |
※「〇〇の候」は「〇〇というふうに季節も移り変わってきましたが」という意味です。
時候の挨拶の例文
書き出し(前文)は、書式が決まっています。その順序は「頭語→時候の挨拶→相手の安否を気遣う挨拶→日頃の感謝→(主文・末文)→結語」です。ビジネス文書の構成が正しく書けているか自信のない方は「ビジネス文書の基本構成と書き方」を確認しておきましょう。
時候の挨拶を含めた、書き出しの例文をご紹介します。
丁寧な表現の例文 謹啓 晩秋の候、貴社にはますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。 (主文・末文省略) 謹白 |
謹啓は「つつしんで申し上げる」という意味。丁寧な文書に適しています。そのほか、相手を敬った表現の頭語には「粛啓・恭啓・謹白」などがあります。その場合、結語は「敬白・謹言・再拝」を記入します。なお、頭語・結語の正しい組み合わせを理解し、相手によって上手く使い分けたいときは「頭語・結語の正しい使い方・組み合わせ」をご覧ください。
一般的な表現の例文 拝啓 霜降の候、貴殿におかれましてはいよいよご清祥のこととお喜び申し上げます。日頃は特段のご愛顧をいただき誠にありがとうございます。 (主文・末文省略) 敬具 |
親しい間柄の人に送る場合や、一般的な表現を用いるときは、上記のように、頭語は「拝啓」、結語は「敬具」にしましょう。
立冬:11月中旬(11月7日頃~11月21日頃)の時候の挨拶
11月中旬は、二十四節気のうち、立冬(11月7日頃~11月21日頃)の時候の挨拶を用います。読み方や意味を以下に記載します。
時候の挨拶 | 読み方 | 意味・由来 |
向寒の候 | こうかんのこう | 寒い冬の訪れを感じる季節 |
初霜の候 | はつしものこう | 霜が降りる季節となりました |
菊花の候 | きっかのこう | 菊の花が香るこの季節 |
冷雨の候 | れいうのこう | 冷たい雨が寒々しいこの頃 |
時雨の候 | しぐれのこう | 通り雨が降る今日この頃 |
冬の始まりとなる立冬の「立」には、新しい季節になるという意味があります。立冬は、立春・立夏・立秋と並ぶ、季節の変わる節目です。これらを四立(しりゅう)といいます。
時候の挨拶の例文
11月中旬の時候の挨拶をご紹介します。
丁寧な表現の例文 謹呈 菊花の候、貴社におかれましてはますますご隆盛の段、慶賀の至りに存じます。平素は過分のご厚情をいただき厚く御礼申し上げます。 (主文・末文省略) 謹白 |
頭語の「謹呈」は「つつしんで申し上げます」、「隆盛」は「勢いが盛んなさま」という意味です。「慶賀」は「喜び、祝うこと」。
一般的な表現の例文 拝啓 初霜の候、貴殿にはますますご健勝の由、何よりと存じます。日頃はいろいろとお引き立てを賜り誠にありがとうございます。 (主文・末文省略) 敬具 |
「健勝」は「健康で元気なさま」の意、相手が個人の場合のみ使用します。ビジネス文書の頭語は一般的に「拝啓」、結語は「敬具」を用いますが、相手が目上の人の場合、「謹啓・謹白」といった相手を敬う表現の頭語・結語をつかいましょう。
小雪:11月下旬(11月22日頃以降)の時候の挨拶
11月下旬は、二十四節気のうち、小雪(11月22日頃~12月6日頃)の時候の挨拶を用います。以下に読み方や意味を記載します。
時候の挨拶 | 読み方 | 意味・由来 |
向寒の候 | こうかんのこう | 寒い冬の訪れを感じる季節 |
霜寒の候 | そうかんのこう | 霜が降るほど寒さが増してきた今日この頃 |
霜秋の候 | そうしゅんのこう | 霜が降りるほど秋が深まる季節 |
※「〇〇の候」以外にも、「〇〇のみぎり」「〇〇の折」もつかえます。
小雪は、秋の深まりと冬の訪れを感じる季節の変わり目の時候の挨拶が多くあります。二十四節気の移り変わる時期を決める定気法では、太陽黄経が240度のときとなる11月22日ごろから小雪にかわります。
時候の挨拶の例文
丁寧な表現の例文 恭啓 向寒の候、貴社にはいよいよご盛栄のことと拝察いたします。常々ひとかたならぬご高配にあずかり厚く御礼申し上げます。 (主文・末文省略) 頓首 |
恭啓は「うやうやしく申し上げる」、盛栄は「商売などが盛んになること」という意味です。
一般的な表現の例文 拝呈 霜寒の候、貴殿におかれましてはますますご健勝のこととお喜び申し上げます。平素は特段のご愛顧をいただき誠にありがとうございます。 (主文・末文省略) 敬具 |
健勝は「健康で元気な様子」の意です。時候の挨拶に限らず、言葉の意味を理解して用いるようにしましょう。
親しい人に送る「口語調」の時候の挨拶
気心の知れた友人や長年の付き合いのある相手に手紙を送るときは、堅苦しい挨拶を避けて、やわらかい表現の口語調を用います。親しい相手に送る時候の挨拶をご紹介していきます。
霜降:11月上旬(11月6日頃まで)の時候の挨拶・結びの言葉
季節感のある挨拶と、慣用句として使いやすい結びの言葉は以下のとおりです。
時候の挨拶
- 菊の香り漂う霜月を迎えましたが、いかがお過ごしでしょうか。
- 秋されの時節となりましたが、お変わりございませんでしょうか。
- かえでは紅、いちょうは黄金、はなやかな錦の秋となりました。
- 暦の上でははや立冬となり、めっきり日脚も短くなってまいりました。
- 街路のいちょうもすっかり黄金色に色づきました。
- 秋気身にしみる頃となりました。
- 日だまりの恋しい季節となりました。
- 洗い物をする水が、いよいよ冷たく感じられる季節になりました。
結びの言葉
- これから寒さに向かいますが、くれぐれもおからだをおいといください。
- ことのほか風も冷たく感じられるこの頃、つつがなくお過ごしください。
- 寒さに向かう折、お風邪など召されませんようご自愛専一に。
秋されとは、秋になること、秋が深まることをいいます。「秋さり」ともいいます。覚えておきましょう。
時候の挨拶の例文
丁寧な表現の例文 謹啓 かえでは紅、いちょうは黄金、はなやかな錦の秋となりました。近頃諸事ご多忙と承り、ご健康をお案じ申し上げます。日頃は何かとご高庇にあずかり、厚く御礼申し上げます。 (主文省略) これから寒さに向かいますが、くれぐれもおからだをおいといください。 謹白 |
錦とは、色糸で地と文様を美しく織り出した織物のことです。錦繍という言葉もほぼ同じ意味であり、美しいものをたとえていわれます。
一般的な表現の例文 拝啓 暦の上でははや立冬となり、めっきり日脚も短くなってまいりました。あなた様にはその後もお変わりなく、ご精勤なさっていることと拝察いたします。常々たくさんのお心尽くしをいただき、感謝の念にたえません。 (主文省略) ことのほか風も冷たく感じられるこの頃、つつがなくお過ごしください。 敬具 |
日脚(ひあし)とは、太陽が上空を移動するときの速さがもともとの意味ですが、一般的に「日脚が短い」「日脚が長い」などと、昼間の時間の長さの意味で使われます。
立冬:11月中旬(11月7日頃~11月21日頃)の時候の挨拶・結びの言葉
11月中旬に適した時候の挨拶・結びの言葉は以下のとおりです。
時候の挨拶
- 吐く息も白くなり、冬近しを感じております。
- 艶やかな錦繍の日々も過ぎ、いよいよ冬の到来となりました。
- 枯れ葉も落ちつくし、木々の枝差しもあらわになってまいりました。
- 七五三のお祝いで、千歳飴を持った子どもの晴れ着姿が心を和ませてくれます。
- 遠くの山々がうっすらと冬化粧を始めています。
- 茶の花がかれんな花を咲かせる時分となりました。
- 時雨に濡れそぼつ八手の花の美しい季節となりました。
- 襟元にマフラーの恋しくなる季節がやってきました。
結びの言葉
- 秋の人恋しさを感じつつ、お返事をお待ちしております。
- 天候不順の折柄、どうぞおからだにお気をつけください。
- 時雨の多い時節柄、ご自愛くださいますようお祈り申し上げます。
七五三は、子どもの健やかな成長を祝い、男の子は3歳と5歳、女の子は3歳と7歳の11月15日に着飾って神社にお参りする行事のことです。
時候の挨拶の例文
丁寧な表現の例文 粛啓 遠くの山々がうっすらと冬化粧を始めています。ご一同様にはますますご清祥の由、何よりと存じます。私事ではございますが、当方一同無事消光いたしておりますのでご安心ください。 (主文省略) 天候不順の折柄、どうぞおからだにお気をつけください。 頓首 |
冬化粧とは、山や野原に白く雪が積もった様子を、化粧にたとえていった言葉です。「雪化粧」ともいいます。
一般的な表現の例文 拝啓 茶の花がかれんな花を咲かせる時分となりました。日々お元気でお勤めのこととお喜び申し上げます。私どもも誰一人病気もせず、壮健にしておりますのでご安心ください。 (主文省略) 時雨の多い時節柄、ご自愛くださいますようお祈り申し上げます。 敬具 |
茶の花は、ツバキ科の常緑小高木です。春に若葉を摘んで飲料用の緑茶や紅茶をつくりますが、花は晩秋に小さめの白い花を咲かせます。花の少ない時分ということもあり、季節の花として好まれます。
小雪:11月下旬(11月22日頃以降)の時候の挨拶・結びの言葉
11月下旬に適した時候の挨拶・結びの言葉は以下のとおりです。
時候の挨拶
- 十一月も終盤を迎え、冬支度にあわただしくされていることと存じます。
- 霜枯れの季節となり、冬の到来をいっそう間近に感じております。
- 草木の露も霜へと変わり、冬の気配がいよいよ濃くなってまいりました。
- 葉を落とした木々の梢に風が鳴りわたり、わびしい気持ちがいたします。
- 落ち葉たきがなつかしい頃となりました。
- 散り敷いた落ち葉を北風が舞い上げる時節となりました。
- 夜には湯たんぽを抱いて眠る季節がやってきました。
- 恋猫のなやましい声が夜空にひびく季節となりました。
結びの言葉
- これから朝の霜が日ごとに深まりますので、どうぞご用心ください。
- 朝夕の寒さには、どうぞご用心なさってください。
- 冷え込み厳しい折、皆様のご健康をお祈りいたします。
霜枯れとは、草木が表面に凍りついた霜によって枯れてしまうことです。なお、晩秋のことを「霜枯れどき」ともいいます。
時候の挨拶の例文
丁寧な表現の例文 謹呈 落ち葉たきがなつかしい頃となりました。あなた様にはお変わりもなく、ますますご壮健にて大慶に存じ上げます。私どもは皆変わりなく壮健に暮らしておりますので、余事ながらご休心ください。 (主文省略) これから朝の霜が日ごとに深まりますので、どうぞご用心ください。 謹白 |
落ち葉たきとは、落ち葉を一か所に掃き集めて燃やすこと。さつまいもを火に入れて、焼き芋を作ったりもします。
一般的な表現の例文 拝啓 恋猫のなやましい声が夜空にひびく季節となりました。皆様お障りなくお過ごしでしょうか。私どもも誰一人病気もせず、壮健にておりますのでご安心ください。 (主文省略) 冷え込み厳しい折、皆様のご健康をお祈りいたします。 敬具 |
恋猫とは、繁殖期の猫を指します。俳句でも用いられる冬の季語です。
さいごに
11月の行事や記念日は、文化の日(3日)、七五三(15日)、勤労感謝の日(23日)などがあります。
あらたまった相手に送る時候の挨拶と、親しい間柄の場合では大きな違いがあります。相手との関係性や、手紙を送る時期を理解した上で、適した言葉を用いるようにしましょう。