手紙やビジネス文書でよく見かける表現のひとつに「皆様におかれましては」というフレーズがあります。
「おかれましては」は、日常会話のなかでは使う機会の少ない言葉ですが、どのような意味を持つのでしょうか。
決まり文句としてなんとなく使用している方も多いと思いますが、実は使い方に注意が必要な表現なんです。
ここでは「おかれましては」の意味や正しい使い方についてご説明します。「つきましては」との違いや、ビジネス文書や手紙・メールの例文集もお伝えするので参考にしてくださいね。
目次
「おかれましては」の意味
「おかれましては」とは、相手に関連する事柄を述べるときの表現です。
「関しては」という意味の「於いては(おいては)」を丁寧に敬って言うときに使います。
「おいては」は、動詞の「おく」を活用した「おい」に助詞の「て」「は」をつけた表現です。動詞の「おく」を丁寧にすると「おきます」となり、それを尊敬語にした「おかれます」に助詞をつけたのが「おかれましては」なのです。
「おかれましては」は、手紙やビジネス文書を送る相手に敬意を示した表現であり、尊敬の意味も含むため、目上の人や取引先の企業に宛てるときに使える表現です。
「おかれましては」と「於かれましては」の違い・使い分け方
「皆様におかれましては」は、漢字で「皆様に於かれましては」と書くことができます。ビジネス文書や手紙にはどちらを使用するのがよいのでしょうか。
結論から言うと、どちらも意味や使い方は同じなので間違いではありませんが、平仮名で「皆様におかれましては」と表記するのが一般的です。
漢字で「皆様に於かれましては」と書くと、相手に古風な印象や堅苦しい印象を与えてしまう可能性があります。ビジネス文書や手紙の文面では、かな書きにした「おかれましては」を使うようにしましょう。
また、「おかれましては」の類語表現に「おかれては」があります。「おかれては」も丁寧な言い回しですが、「おかれましては」に比べると丁寧な印象が薄れてしまいます。
そのため、社内に向けるときには使っても良いですが、社外の人には使わないように気を付けたほうがよさそうです。
「つきましては」と「おかれましては」の違い・使い分け方
ビジネス文書を作成するときに「おかれましては」と「つきましては」の使い分けに悩む方も少なくありません。
「おかれましては」は先にも述べた通り、ビジネス文書の挨拶文で使える表現です。では「つきましては」はいかがでしょうか。
結論を言うと、「つきましては」は「皆様につきましては」などと、個人や会社名を指してビジネス文書の前文で使うのは不適切です。
そもそも「つきましては」には2種類の使い方があります。
一つ目は「したがいまして」「そういうわけで」と、接続詞として使う場合です。用法は、これまで話した内容を基に、次の話題に移るときに「つきましては」という言葉を挟んで使います。
二つ目は「~に関しては」と、敬語として使う場合です。「おかれましては」と混同しがちなのは、この意味で使うときですね。
「~に関しては」の意味で使うときは、「この件につきましては」「打ち合わせの件につきまして」などと、話題にしている事柄を置いて使うのが基本です。
そのため、「おかれましては」と同義の意味として、相手の名前や会社名を置いて敬語として使うのは正しくありません。
失礼に聞こえる場合があるので、使い分けには気をつけましょう。
「おかれましては」の使い方
「おかれましては」は、相手に関する事柄を丁寧に述べるときの敬語表現です。「おかれましては」は、ビジネス文書の前文でよく使われる表現ですが、書く位置は下図のとおりです。
ビジネス文書は挨拶文から書き出すのが基本です。前文では、まず「頭語(上図では拝啓)」を書き、つづいて「時候の挨拶(納涼の候)」を書きます。その後に「皆様におかれましては」や「貴社におかれましては」と書き、つづいて相手の繁栄を喜ぶ挨拶や安否を尋ねる挨拶を書きます。
なお、「おかれましては」を省略して「貴社ますますご盛栄のことと」と書いても構いません。詳しい書き方は「相手の安否を尋ねる挨拶|すぐに使える例文つき」をご覧ください。
ちなみに、不特定多数の人に送るときは「皆様におかれましては」、会社や組織に宛てる場合は「貴社におかれましては」、個人に送るときは「貴殿におかれましては」と使われるのが一般的です。
【例文】
- 皆様におかれましてはますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
- 皆様におかれましては益々ご盛栄の段、お慶び申し上げます。
- 貴社におかれましてはいよいよご隆盛の段、慶賀の至りに存じます。
- 貴行におかれましてはますますご隆昌のことと拝察いたします。
- 皆様におかれましてはますますご隆冒のこととお喜び申し上げます。
- 貴社におかれましてはますますご発展の由、拝察いたします。
清栄(せいえい)は「相手の無事と繁栄を喜ぶ」という意味、盛栄(せいえい)は「商売などが盛んなこと(段:ということ)」、隆盛(りゅうせい)は「勢いが盛んなこと」、慶賀の至りは「この上ない喜び」という意味です。
「おかれましては」を使ったビジネス文書の例文集
つづいては「おかれましては」を使った例文を紹介します。
贈り物への感謝を伝えるお礼状(個人宛)
拝啓 師走の候、〇〇様におかれましてはますますご健勝のこととお喜び申し上げます。 敬具 |
会食への参加依頼(個人宛)
平成〇〇年〇月〇日 取引先各位 株式会社〇〇〇〇 会食のご案内 拝啓 新秋の候、皆様におかれましては益々ご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のお引き立てを賜り、深く感謝申し上げます。 敬具 記 日時 平成〇〇年〇月〇日(〇)18時~21時 ※なお、出欠の有無を〇月〇日までに同封しております返信用はがきにてお知らせください。 以上 |
前文で「皆様におかれましては…」と、先方の繁栄を喜ぶ挨拶を記した後、日頃の感謝を伝える挨拶を書いておくと丁寧です。詳しくは「日頃の感謝を伝える挨拶」をご覧ください。
なお、その他の会食の案内に関する文例は「会食の案内状の書き方|文例つき」をご確認ください。
不良品のお詫び状・謝罪文(会社宛)
平成〇〇年〇月〇日 株式会社〇〇〇 株式会社〇〇〇〇 不良品のお詫び 拝復 貴社におかれましては益々ご清栄のこととお喜び申し上げます。平素はひとかたならぬご厚誼を賜り深謝申し上げます。 敬具 |
謝罪文でも「おかれましては」は使っても問題ありません。
ただし、「お客様におかれましては、大変ご迷惑をお掛けいたしました(こと深くお詫び申し上げます)」という使い方は間違いであり、相手に大変失礼な表現です。
正しくは「弊社の不手際で、お客様に大変ご迷惑をお掛けいたしました。申し訳ございません」です。
「おかれましては」を使ったビジネスメールの例文集
「おかれましては」は、ビジネスシーンの日常のやりとりで頻繁に使う表現ではありません。
ビジネスメールの書き出しの挨拶は、社外に宛てるときは「お世話になっております」、社内であれば「お疲れ様です」が基本です。
「おかれましては」を使うのは、久しぶりに連絡する相手の安否を尋ねるときや、相手のことを指して感謝やお礼の気持ちを伝えるときです。詳しくは例文をご覧ください。
同窓会の案内メールの例文
件名:同窓会のご案内 〇〇小学校 ご無沙汰しております。 〇〇先生におかれましては この度、私たち〇〇小学校〇期生は 詳細は以下の通りです。 ■同窓会の詳細 ご出席のお返事は〇月〇日までに 約〇年ぶりに〇〇先生を囲み、 〇〇先生のお越しを心よりお待ちしております。 ================== |
異動の挨拶メールの例文
件名:支店着任のご挨拶 株式会社〇〇〇〇 平素より大変お世話になっております。 さて、この度〇月〇日付で無事、 在任中は大変お世話になりました。 〇〇様とのお仕事を通じて、私自身、 〇〇支店では〇〇様の教えを生かして業務に精励いたす所存です。 〇〇様におかれましてはご多忙とは存じますが、 〇〇様と貴社の益々のご健勝とご発展を 〇年もの間、本当にありがとうございました。 ==================== |
上記例文のように、相手の健康を願う言葉を添える場合は、結びの挨拶でも使うことができます。
お世話になった感謝の気持ちを伝えるメール
件名:送別会のお礼 株式会社〇〇〇〇 お世話になっております。 昨日はご多用のところ、 初めての職務で戸惑うことばかりではありましたが、 〇〇様におかれましては、公私を問わずお付き合いいただき、 心から感謝申し上げます。 来月には後任の△△が着任いたしますが、 私は、週明けから新任地での仕事がスタートします。 メールにて恐縮ではございますが、 まずは、お礼とご報告を申し上げます。 ==================== |
「おかれましては」を使ったその他の定番フレーズ
さいごに、「おかれましては」を使った決まり文句の挨拶文をお伝えします。
まずは会社や組織に宛てる場合の例文をご紹介します。
- 皆様におかれましてはますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
- 貴店におかれましては時下ますますご発展のこととお喜び申し上げます。
- 貴館におかれましては益々ご発展のこととお喜び申し上げます。
- 貴院におかれましては今後ますますのご清栄をお祈り申し上げます。
つづいては個人に宛てる場合の例文です。
- 保護者の皆様におかれましてはますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
- ご家族の皆様におかれましてはお健やかにお過ごしのこととお喜び申し上げます。
- ご家族一同様におかれましてはお変わりなくお過ごしのことと存じます。
- 会員の皆様におかれましてはご清祥のこととお喜び申し上げます。
- 〇〇様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
- ご家族の皆様におかれましては今年もご多幸ありますよう心よりお祈り申し上げます。
- 皆様におかれましては本年も変わらぬお付き合いをお願い申し上げます。
「皆様におかれましては」以外の言い回しを使いたい方は「相手の安否を尋ねる挨拶|すぐに使える例文つき」をご覧ください。
さいごに
ここでは「皆様におかれましては」の意味や使い方についてお伝えしましたが、いかがでしょうか。
ビジネス文書の前文は「頭語・時候の挨拶・相手の安否を尋ねる挨拶(繁栄を喜ぶ挨拶)・日頃の感謝を伝える挨拶」の4つの項目で成り立っており、「皆様におかれましては」は「相手の安否を尋ねる挨拶」の一部で使用する大事な部分ですね。
前文の構成や書き方が曖昧になっている方は「前文とは|ビジネス文書の書き方」をご覧ください。この機会に覚えておいてくださいね。