「放念」という言葉を見聞きしたことはありますか?
日常生活ではあまり触れる機会のない言葉ですが、「放念」は年賀状やお歳暮といった節目の挨拶に使われることがあります。もしこうした場面で自分が「放念」という文章を受け取ったら、どのような返事をするのが適切なのでしょうか。
ここでは、「放念」の意味や使い方をご紹介します。
ビジネスシーンでも使用例や、類語や対義語についてもまとめましたので、是非確認してくださいね。
「放念」の意味
「放念(ほうねん)」の意味は、「気にかけないこと。心配しないこと」です。
「放念」の意味は、漢字に着目すると理解しやすくなります。「放」を使った熟語に「放牧」「解放」があるように、「放」には「はなす。ときはなす。自由にさせる。ゆるす」という意味があります。また、「念」は「念書」「丹念」という熟語からもわかるように、「おもう。考える。おもい。心にとめて忘れない」という意味を持っています。
- 放:はなす。ときはなす。自由にさせる。ゆるす。
- 念:心にとめて忘れない。
このことから、「放念」は「心にとめることをやめる」という意味になります。
「放念」の使い方(例文つき)
「放念」は主に、手紙やメールなどの書き言葉で用いる語です。
相手に対して「気にしないでください」「心配しないでください」「心に留めていただかなくて大丈夫ですよ」と謝罪や気遣いを伝える際に「放念」を使います。目上の人や取引先に向かってストレートに「気にしないでください」と伝えるのはややカジュアルでふさわしくありません。そんな時、代わりに使えるのがやや硬い印象を持つ「放念」です。なお、自分に対して「放念します」とするのは、日本語として誤りではないものの一般的ではありません。
実際の場面では、尊敬語の一般形「ご~ください」に当てはめて「ご放念ください」とします。もし「~ください」が持つ相手に強制するようなニュアンスを避けたいなら、より丁寧な「ご放念いただけますでしょうか」という表現が良いでしょう。疑問形にすることで、相手に放念するかどうかの判断を委ねる形になり、婉曲的にお願いすることができます。
ちなみに、「放念」と似た言葉に「失念」がありますが、こちらの意味は「うっかり忘れること。ど忘れ」です。相手に忘れてほしいことは「放念」、自分がうっかり忘れてしまったことは「失念」を使い、混同しないよう注意しましょう。
これらを踏まえて、ビジネスシーンや年賀状、お歳暮・お中元での使い方を例文と一緒にご紹介します。
ビジネスシーンでの使い方
ビジネスシーンで「放念」を使う場面として、メールの宛先を間違えた時、依頼を取り下げる時、こちらの都合で商談などに誘う時などが挙げられます。
まず、メールの宛先を間違えた場合です。
一度送ったメールは取り消すことができません。本来送るべきではない相手にメールを出してしまったら、「先ほどのメールは誤りなので、気にかけないでください」という意味合いの「ご放念ください」を添えてなるべく早くお詫びをしましょう。また、メーリングリストを使って複数人に一括送信する際、受信者の中には内容に関係ない方もいるかと思います。そんな時にも「心にとどめていただかなくて大丈夫です」という意味合いで「〇〇の対象ではない方は、どうぞご放念ください」と使います。
次に、依頼を取り下げる場合です。
こちらから相手に何かを依頼したものの、事情が変わって依頼が不要となり取り下げる必要が生じたとします。そんなときに、「依頼のことは忘れてください」というニュアンスで「事情が変わりましたので、ご放念ください」とお断りします。
最後に、こちらの都合で商談などに誘う時です。
ビジネスシーンでは、相手の事情や都合がわからないまま、提案や商談等のお声掛けをすることが多々あります。そんな時に「もし都合が悪ければ気にしないでください」というニュアンスで「ご放念ください」を使うことで、相手に対する配慮を示すことができます。
ビジネスシーンで「放念」を使った例文は以下の通りです。
【例文】
- さきほどのメールは誤りです。申し訳ありません、どうぞご放念ください。
- 以上が次回開催予定の勉強会概要となります。なお、勉強会の参加条件として挙げた資格を未取得方は、どうぞご放念ください
- 弊社の方針変更により、共同開発の実現が困難となりました。大変申し訳ありませんが、この件につきましてはご放念いただけますでしょうか。
- 下記日程で新商品の発表会を行いますので、ご参加いただけますと幸いです。もしご都合が悪ければ、ご放念くださいますようお願いいたします。
年賀状での使い方
年賀状では、二通りの文脈で「放念」を使います。
まず、こちらの良い状況と一緒に「ご放念ください」を使うと、年賀状にふさわしいかしこまった表現で「元気でやっていますので、こちらのことは心配しないでください」という内容を伝えることができます。
また、こちらの悪い状況と一緒に「ご放念ください」を使うと、「こちらのことは気に掛けないでください」と翌年以降の年賀状のやりとりを差し控えたい趣旨を伝えることができます。近年では様々な理由で年賀状を控える人がいます。高齢で年賀状のやりとりが困難になった、メールやSNSのメッセージを年賀状に替えたいといった時に、「ご放念ください」を使うことで、翌年以降の年賀状を丁寧に遠慮することができます。
ちなみに、年賀状では句読点を使用しないのがルールです。目上の人や取引先に宛てた年賀状では、基本に則って句読点の使用は避けるのが無難でしょう。
年賀状で「放念」を使った例文は、以下の通りです。
【例文】
- おかげさまで健康に過ごしておりますので ご放念ください
- 私どもも元気に年を重ねております どうぞご放念ください
- 誠に勝手ながら本年をもちまして年始のご挨拶を欠礼させていただきます 当方についてはご放念くださいますようお願い申し上げます
その他の年賀状の例文を確認したい方は「年賀状の書き方(例文つき)」をご覧ください。
お歳暮・お中元での使い方
お歳暮やお中元といった贈り物をいただいた時にも、「放念」を使うことがあります。
今後の贈り物について遠慮したい時、直接的に「要りません」と伝えるのは大変失礼です。そんな時に「ご放念ください」を使うと、相手の厚意に感謝しつつ「もうこのように気に掛けてくださらなくて結構ですよ」と丁寧に伝えることができます。ただし、自分が「ご放念ください」と言われた際、本当に贈り物が不要な場合もあればただの社交辞令の場合もあるため、慎重に判断する必要があります。
お歳暮やお中元のお返事に「放念」を使った例文は、以下の通りです。
【例文】
- この度は、結構なお品物をありがとうございました。今後はお気遣いなく、どうぞご放念ください。
- この度は、お心のこもったお品をありがとうございます。何卒、このようなお気遣いはご放念くださいませ。
- いつも誠にありがとうございます。このようなお気遣いは恐縮に存じますので、今後はご放念くださいますようお願い申し上げます。
その他の書き方を例文で確認したい方は「お中元のお礼状の書き方」「お歳暮のお礼状の書き方」をご覧ください。
「放念」への返信・返事
もし自分が相手から「ご放念ください」というメッセージをもらった場合には、どのように返信するのが適切なのでしょうか。
「気にしないでください」と言われていても、まったくリアクションを取らないと無視をしたような形になってしまいます。ビジネスシーンでは「ご放念ください」に対して簡潔な一文で構わないので、「かしこまりました」「承知しました」などと返信をしましょう。この時さらに、「またお会いできることを楽しみにしています」といった一言を添えると相手への気遣いを示すことができます。
一方で、返信を控えた方がいいメッセージもあります。複数人に一斉送信してあるメールでは、受信者が一人一人返信してしまうと相手に余計な手間や労力をかけてしまいます。このように、返信が必要か否かは状況や相手との関係性によって判断するのが賢明です。
「放念」の類語・言い換え表現
「ご放念ください」の類語には、以下のようなものがあります。
【類語】
- お気になさらないでください:「心配しないでください」「心にとめないでください」という意味で、相手からの謝罪や気遣いを丁寧に断ることができます。
- ご安心ください:「不安に思わないでください」「心配しないでください」という意味です。尊敬語の一般形を使っていますが、ややカジュアルなフレーズなので親しい上司や同僚への使用が適しています。
- お忘れください:「気にしないでください」「忘れてください」という意味です。「ご安心ください」同様、目上の人や取引先に使うにはややカジュアルなフレーズです。
- お読み捨てください:「読んだら放っておいてください」という意味で、暗に「返信は不要です」と伝えています。
- お見捨て置きください:「見たらそのままにしてください」という意味で、返信不要と伝えるためのフレーズです。
- ご容赦ください:「許してください」という意味です。
「放念」の対義語
「ご放念ください」の対義語には、以下のようなものがあります。
【対義語】
- ご注意ください:気を付けてください。
- ご留意ください:心にとどめて、気をつけてください。
- お含みおきください:事情をよく理解して心にとめておいてください。
なお、「放念」の対義語には、「気にかかって不安に思うこと」という意味の「懸念(けねん)」があります。
さいごに
ここまで「放念」についてご説明してきましたが、いかがでしたか。
「放念」は「気にかけないこと」という意味です。主に書き言葉で、相手に対して「ご放念ください」とお願いする形で使います。自分の失敗を忘れてほしい時や相手の厚意を感謝しつつも断りたい時に「忘れてください」「どうぞ気にしないでください」というニュアンスで用います。
相手の厚意による贈り物や年賀状のやり取りは、不要であっても断りづらいものですよね。そんな時に「ご放念ください」「ご放念くださいますようお願い申し上げます」というフレーズを使うと、相手を尊重しつつ次から遠慮したい気持ちを丁寧に伝えることができます。
「放念」は日常生活ではなじみの薄い言葉ですが、この記事を参考に適切に使えるようになることを応援しています。