手紙やビジネス文書を書くとき、「貴殿」という言葉を使ったり、見たりしたことはありますか?
目上の人との会話では、相手の名前のあとに「様」や「社長」「部長」といった敬称をつけて敬意を表す呼び方をするのが一般的ですが、かしこまった場面や手紙を書くときは「貴殿」がよく使われますよね。
社会人になると、敬称を正しく使い分けることがマナーです。ではこの「貴殿」は、どういう意味をもち、誰に対して使う言葉なのでしょうか?また、女性にも使っていい敬称なのでしょうか?
ここでは「貴殿」の意味や使い方・類語について詳しく解説します。また、女性にも使える表現なのか、貴方や貴社・貴職・貴公との違いや言い換え表現についても紹介するので参考にしてくださいね。
目次
「貴殿」の意味・使い方
「貴殿」は「きでん」と読みます。「きどの」ではありません。
「貴殿」は二人称の人代名詞であり、「男性が目上または同等の立場の男性に対して尊敬の念を表して使う敬称」です。「あなた」の代わりに使います。
近世前期までは、武家が目上の相手を尊敬して呼ぶ語でしたが、それがのちに同輩に対して親愛を表す敬称としても使われるようになりました。
ビジネスシーンでは、個人に文書を宛てるときに、文中では「〇〇様」「〇〇部長」といった書き方をせず、「貴殿」と書くのが一般的です。
※「貴殿様」は敬称が続くため二重敬語となるので間違いです。慇懃無礼にならないよう気をつけましょう。
【例文】
- 貴殿のご尽力の賜物と感謝しております。
- 貴殿におかれましてはご清祥のことと存じます。
- 貴殿におかれましてはご健勝のこととお喜び申し上げます。
- 貴殿の今後のご健闘を心よりお祈り申し上げております。
ビジネス文書の前文では、慣用的な表現を用いて、個人の健康や活躍を喜ぶ言葉を書くのがマナー。詳しくは「相手の安否を尋ねる挨拶|すぐに使える例文つき」をご覧ください。
複数人に宛てる場合の書き方
個人に宛てるときは「貴殿」を使うことをお伝えしました。では、手紙やメールで、複数の目上の人に呼び掛けるときは「貴殿」の代わりに何と書くのでしょうか。
複数人に宛てるときは「貴殿方(きでんがた)」を使います。
ただし、最近では「皆様」や「皆様方」を用いて「皆様におかれましては」などと使うのが一般的です。
「貴殿」は女性にも使える?
「貴殿」は、男性が、自分より目上の人か、同等の立場の男性に対して使う語なので、本来、女性には使いません。
ですが、現代はビジネス文書やメールを送ったりするときにも、できるだけ男性・女性であることを意識しないようにする傾向があります。そのため、女性が手紙を送るときに使ったり、もしくは女性に宛てたりする場合に使っても問題ありません。
言葉の使い方は時代とともに変わっていくため、辞書的な意味にとらわれず、柔軟に使いこなすことが大切です。
「貴殿」の女性向けの言い方は「貴女」
特定の女性に手紙やメールを宛てるときや、女性に向けて呼びかけるときは「貴殿」よりも「貴女」を使うほうが適切です。読み方は「きじょ」です。
「貴女」は、本来身分の高い女性に対して使われる言葉ですが、現代では女性に対して軽い尊敬の意を添えた言葉として用いられています。
さらに最近では、インターネットの中で面識のない間柄で「貴女」という言葉を使う傾向があるようなので、「貴女」はもっぱら「〇〇様」もしくは「〇〇さん」程度の位置づけで使われていると考えられます。
ところが、女性にしか使われない言葉を用いると、今度は性別による差別的な扱いをするとして問題視されることもありますし、何度かやり取りしたことのある相手に「貴殿」や「貴女」を使うと他人行儀な印象を与えます。
使い慣れない場合は「〇〇様」を使うようにしましょう。
「貴殿」を使ったビジネス文書の例文集
つづいては「貴殿」を使ったビジネス文書の例文を紹介します。
お詫び文
平成〇〇年〇月〇日 〇〇〇〇様 株式会社〇〇〇〇 弊社社員の不始末のお詫び 拝啓 いつも弊社サービスをご利用いただき、誠にありがとうございます。 敬具 |
その他のお詫び文は「社員不始末のお詫び状」をご覧ください。
不採用通知
平成〇〇年〇月〇日 〇〇〇〇様 株式会社〇〇〇〇 採用試験の選考結果について 拝啓 貴殿におかれましてはご清祥のことと存じます。このたびは当社の社員募集に応募いただきまして、ありがとうございました。 敬具 |
不採用通知書のその他の例文は「不採用通知書の書き方」をご覧ください。
お礼状
拝啓 猛暑の候、貴殿にはますますご清祥のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご愛顧を賜りありがたく感謝申し上げます。 敬具 |
「貴殿」の言い換え表現・類語
「貴殿」の様な二人称の敬称は、他にどのようなものがあるでしょうか。
- 貴方(あなた、きほう):男性が同等の相手を敬っていう語。
- 貴台(きだい):相手を敬って、その家屋敷をいう語。広く手紙文で用いる敬称。
- 貴兄(きけい):男性が、手紙などで同輩または先輩に対して、軽い敬意や親しみの気持ちを込めて用いる敬称。
- 貴姉(きし):自分と同等または年長の女性を敬って用いる敬称。
- 貴公(きこう):男性が、対等または目下の男性に対して用いる語。
- 貴君(きくん):男性が、手紙などで、 対等または目下の男性に対し、軽い敬意を込めて用いる。
- 貴職(きしょく):書簡・文書などで,相手の身分・職名を敬っていう語。
- 貴家(きけ):相手を敬ってその家をいう語。
- 貴老(きろう):老人を敬っていう語。
「貴様(きさま)」を使うときは注意しましょう。「貴様」は江戸時代の前期ごろまでは尊敬の念を表す呼び方として用いられていましたが、現代では敬意がなくなり、相手をののしる意味で使われるようになった語です。目上の人はもちろん、相手に「貴様は」などと書いたりしないよう気をつけましょう。
できれば敬称を使う前に、言葉の意味を確認するようにしたいですね。なお、法人や団体に対して敬意を表す場合は、「貴社」や「貴店」「貴校」などの尊称があります。正しい使い分け方を知りたい方は「敬語の正しい使い方|種類別の敬語表現集」をご覧ください。
さいごに
ここではビジネス文書で使われることの多い「貴殿」の意味や使い方についてお伝えしましたが、いかがでしょうか。
日常会話で使う機会が少ない言葉のため、正しい意味や使い方を知らなかったという方も多いのではないでしょうか。
特に「殿」という文字が含まれているため、女性に対して使うのをためらっていた人は多いでしょう。
「貴殿」は男性にも女性にも使える言葉なのですが、言葉の成り立ちからすると「殿」という言葉に違和感を覚える人もいるため、女性に対しては「貴女」という敬称を使う方法もあります。
しかし「貴女」は近年の男女平等の取り組みにはあまり迎合されない敬称であるため、できれば「〇〇様」と書くようにすることを心がけましょう。