「忸怩たる思い」という言葉を聞いたことがありますか?
不祥事を詫びる謝罪会見の場で、反省の意を表すときに使われたりする言葉です。
日常会話ではほとんど使わない言葉なので、「忸怩たる思い」の意味や使い方について聞かれたら、はっきりと答えられない方も多いのではないでしょうか。
ここでは「忸怩たる思い」の意味や正しい使い方、類語について詳しく解説します。メール例文や用例、誤用表現についてもお伝えするので参考にしてくださいね。
目次
「忸怩たる思い」の意味・使い方
「忸怩(じくじ)たる思い」とは「自ら恥じ入る気持ちに駆られること。またはそのような感情」という意味です。
「忸怩」の読み方は「じくじ」であり、「自分の言動を恥じること」という意味です。
政治家や企業の責任者が謝罪会見をするときに「忸怩たる思いでございます」と言っているのを聞くことがありますが、つまり「恥ずかしく情けないことをしてしまって深く反省しています」という謝罪の意味が込められた言葉なのです。
【例文】
- この度は私の軽率な行動により皆様の信頼を裏切る結果となり、忸怩たる思いでございます。
- 私の発言が騒動の発端となったことに、忸怩たる思いでございます。
- 倒産の原因は我々の見通しが甘かったことであり、忸怩たる思いです。
- 息子の素行の悪さはひとえに私の責任であり、忸怩たる思いでおります。
- お手を煩わせてしまったことに、内心は忸怩たる思いでございます。
- 思い出すたびに忸怩たる思いに駆られる。
- 確認を怠った結果に、忸怩たる思いでいっぱいだ。
「忸怩たる思い」の誤用に注意!
「忸怩たる思い」は間違った使い方をしてしまいがちな言葉のため、注意しなくてはなりません。
よくある間違いが「忸怩たる思い」を「悔しい思い」「思い悩む」という意味で使うことです。「忸」や「怩」には「悔しい」という意味はなく、誤用です。
たとえばスポーツで初戦敗退を喫したとき、監督が「応援してくださった皆様のご期待に応えられず、忸怩たる思いだ」といったときは「期待に応えられずとても恥ずかしい」という意味になります。「負けて悔しい」という意味は含まれません。
また、「来期の方針についてA案とB案のどちらを選択するか迷っていて忸怩たる思いだ」という使い方も間違いです。どちらを決断すべきか迷っていて恥ずかしくなることはありませんよね。
このように誤用が多いのは、「忸怩たる思い」の「じくじ」という響きがうじうじと悩んでいるイメージにつながるからという人もいるようです。
【そのほかの誤用の例文】
- ライバルの躍進に忸怩たる思いだ。(悔しい)
- 目を離した隙に状況が一変し、忸怩たる思いだ。(悔しい)
- 投資すべきかどうか迷っていて忸怩たる思いだ。(思い悩む)
上記の例文は全て間違いです。正しい意味は「自分の言動を恥じること」です。誤用に気をつけましょう。
「忸怩たる思い」を使ったビジネスメール例文集
つづいては「忸怩たる思い」を使ったメールの例文を紹介します。
社員不祥事のお詫びメールの文例
件名:弊社社員不祥事のお詫び 株式会社〇〇〇〇 平素より大変お世話になっております。 〇月〇日に〇〇県迷惑防止条例違反の容疑で逮捕された この度のことは皆様の信頼を著しく失墜させる 今後、確認された事実に基づいて、速やかに 取り急ぎ、ご迷惑とご心配をおかけしたお詫びを申し上げます。 ==================== |
社員の不祥事による謝罪メールの文例は「社員不祥事のお詫びメールの文例集」をご覧ください。
不手際の謝罪メールの文例
件名:弊社社員の不手際へのお詫び 株式会社〇〇〇〇 お世話になっております。 昨日は弊社社員が〇〇様に対して、 確認を致しましたところ、 部下には私から厳しく指導致しました。 本人も、今後二度とこのようなことを繰り返さないと このような不手際のないよう、 後日、改めてお詫びに伺いたいと存じますが、 ==================== |
そのほかの社員の不手際の謝罪メールを確認したい方は「部下の不手際のお詫びメールの文例集」をご覧ください。
「忸怩たる思い」の類語・言い換え表現
忸怩たる思いと同じ意味・似た意味を持つ類語には次のようなものがあります。
- 恥じる:欠点・誤りに気づいて、他人に顔向けできないと思うこと
- 悔いが残る:物事がうまく進まずに終わったり、やり残したりしたことを残念に思うこと
- 汗顔の至り:恥と思って後悔すること
- 自己嫌悪に陥る:自分で自分がイヤになること
- 慚愧に堪えない:自分を非常に恥ずかしく思うさま
- 不徳の致すところ:自分の不徳が原因で、好ましくない事態になったこと
- 悔恨の情:恥と思い悔いること
- 自責の念にかられる:自分の責任だと自らを責めること
上記のほか、「思い返しては身悶えする」「みっともない思い」「情けない思い」などがあります。ビジネスシーンにおいて謝罪の場面でも使われるフレーズですね。
「忸怩たる思い」と「慚愧に堪えない」の違い
「忸怩たる思い」と「慚愧に堪えない」は、「恥ずかしく思う」という似た意味を持つ言葉ですが、「慚愧に堪えない」には後悔の念や悔まれる気持ちも含んでいます。
前章でお伝えしたとおり、「忸怩たる思い」には「悔しい」気持ちは含まれません。わずかなニュアンスの違いですが、覚えておきましょう。
【例文】
- データ改ざんが原因で事故を起こしたことは誠に遺憾であり、慚愧に堪えない。
- このような報道がなされたことは慚愧に堪えないことでもあります。
ちなみに「慚愧に耐えない」は誤用です。正しくは「堪えない」です。
さいごに
ここでは「忸怩たる思い」の意味や正しい使い方、誤用表現についてお伝えしましたが、理解できましたか?
日常生活で頻繁に使う言葉ではありませんが、謝罪の場面で誠意を見せるときや反省の気持ちを伝えるときに使える表現なので覚えておきましょう。
なるべくなら、使う機会がこないほうが良い「忸怩たる思い」の言葉ですが、社会人として知っておきたい言葉の一つです。
この機会に意味と使い方をマスターしておきましょう。