「万障お繰り合わせの上、ご出席ください」という表現は、日常会話で使う言葉ではありませんが、ビジネス関連の招待状などでは目にする機会も多い言い回しです。
これまで特に意味を考えることもなく、後半の「ご出席ください」だけを読んで、予定はどうだっけ、とスケジュールを確認していた人も多いのではないでしょうか。
でも、ビジネスパーソンともなれば、何かの案内を送ったり、人を招待したりする機会に、使わなくてはならない側に回る機会も増えてきます。
ここでは、「万障お繰り合わせの上」の表現の意味や使い方について詳しく解説します。「万障お繰り合わせの上」が適切な文脈なのか、目上の人に使っても失礼にならないのか、この機会にぜひ、使い方をマスターしてくださいね。
目次
「万障お繰り合わせの上」の意味・使い方
「万障お繰り合わせの上」は「ばんしょうおくりあわせのうえ」と読みます。
「万障」の「万」は数の大変多いことを指します。数で一万、二万、というときは「マン」と読みますが、「準備万端」「万難を排して」など、非常に数が多いことを比喩的に表現する場合は「バン」と読むことが多いのです。
「障」とは差し障りや障害のこと。つまり「万障」とは、「さまざまな差し障り」という意味になりますが、現在では「万障お繰り合わせの上」という文脈で使われるぐらいで、それ以外では、私たちはほとんど目にすることもない表現ですよね。
「繰り合わせる」とは、「やりくりをする、都合をつける」ということです。この表現のほかには「予定を繰り合わせる」「忙しい中を繰り合わせる」という使い方をします。
以上より、「万障お繰り合わせの上」とは「いろいろご予定はおありでしょうが、なんとか都合をつけて」という意味になります。
また、「万障を繰り合わせる」は自分を主語にすることもできます。「(大切な行事なので)万障を繰り合わせて参加いたします」と、どんな事情があっても都合をつけて絶対に参加します、という気持ちを伝えることができる表現です。
【例文】
- 総会の案内状:〇〇総会を開催いたします。つきましてはご多用の折とは存じますが、万障お繰り合わせの上、なにとぞご臨席賜りますようお願い申し上げます。
- セミナー・研修会の案内状:皆様ご多忙のところ恐縮ではございますが、研修会には万障お繰り合わせの上、ご参加いただきたく、ご案内を申し上げます。
- 参加の返事:〇〇会には万障を繰り合わせて参加いたしますので、よろしくお願いいたします。
「万障お繰り合わせの上」は相手に失礼な表現?
明治時代の文書に「万障御繰合御来会被成下度(万障お繰り合わせご来会くだされたく)、此段及(このだんにおよび)御案内候也(ごあんないそうろうなり)」という文言がありますが、この表現は昔から日本人にとって何かを案内し、招待する場合の定型文として使われていました。候文を使わなくなった今でも、この言い方が残ったのは、礼儀と格式が感じられるばかりでなく、使い勝手も良い表現だったからなのでしょう。
ただ気をつけたいのは、「お繰り合わせ」の主語が相手であることから「差支えがあっても相手に都合をつけさせようとするもの」という判断から、近年では目上の人に宛てる場合は避ける傾向があることです。
それを踏まえると、多くの人に呼びかけ、案内・招待する定型文として使うことには問題はありませんが、特定の目上の人には使わない方が良い表現と言えそうです。
「万障お繰り合わせの上」を使ったビジネス文書・メールの例文集
飲み会・懇親会の案内状の例文(社外)
平成〇〇年〇月〇日 取引先各位 株式会社〇〇〇〇 会食のご案内 拝啓 初夏の候、貴社ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。 敬具 記 日時 〇月〇日(〇)午後6時~8時 お問い合わせ先 以上 |
そのほかの会食の案内状は「会食の案内状の書き方」をご覧ください。
歓迎会の案内状の例文(社内)
平成〇〇年〇月〇日 社員各位 営業企画部 歓迎会のお知らせ このたび、4月1日より〇〇〇〇さんが入社されることとなりました。 記 日時 平成〇〇年〇月〇日(〇)18時 恐れ入りますが、出欠のお返事は各課でとりまとめて、〇月〇日までに総務部〇〇までお知らせください。 以上 |
「万障お繰り合わせのうえ」を使った案内メールの例文
件名:壮行会のお知らせ 営業部各位 お疲れ様です。〇〇です。 この度、当部の△△課長が、きたる〇月〇日をもって つきましては、これまでのご精勤をねぎらい、 お忙しいとは存じますが、皆様、万障お繰り合わせのうえ、 ■壮行会の詳細 なお、出欠のお返事は各課で取りまとめのうえ、 上記につきまして何卒宜しくお願い申し上げます。 ==================== |
「万障お繰り合わせの上」を使ったメール例文は「壮行会の案内メールの文例集」をご覧ください。
「万障お繰り合わせの上」への返事の仕方
「万障お繰り合わせの上」はあくまでも招待するときの定型表現のため、欠席する場合でもあまり深く考える必要はありません。出席するとき、欠席するときの返事の書き方の例は下記のとおりです。
出席や参加が可能な場合
【文例】
- お招きいただきまして、大変光栄です。喜んで出席(参加)させていただきます。
- 勉強の機会を与えてくださいまして、心より感謝しております。喜んで出席させていただきます。
出席できない場合
丁寧に謝罪することが必要です。最初に招待してくれたお礼を書き、「所用につき」「事情により」などと不参加の返事と、簡潔に参加できない理由を述べましょう。そして、お詫びの言葉を明記してから、相手との関係の継続を願う文言を加え、催しがうまくいくように願う言葉で締めくくるのがマナーです。
【文例】
~にお招きいただきましてありがとうございました。
残念ではございますが、今回、やむを得ない事情により(※簡潔にこちらの事情を説明するともっと良い)出席することがかないません。大変申し訳ございません。
またの機会がございましたら、次回こそはぜひ参加させていただきたく存じます。
ご盛会を心よりお祈り申し上げます。
「万障お繰り合わせの上」の類語・言い換え
「万障お繰り合わせの上」の類似表現としては、「万障」を言い換える形で
- ご多用中、恐れ入りますが
- ご多用の折とは存じますが
- ご繁用のところ恐縮に存じますが
などの表現があります。「お繰り合わせの上」の言い換えるには
- お取り計らいをいただき
- なにとぞお時間をいただき
と、相手に「都合をつけてください」を丁寧にお願いする別の表現を当てはめることもができます。また、相手に指図する表現だから、とその部分を避けて、
- ご多用の折とは存じますが、なにとぞご参加くださいますようお願い申し上げます。
- 皆様、奮ってご参加ください。
- ご都合がよろしければ是非ご参加ください。
などと参加を願う言葉で表現する言い回しもあります。
まとめ
「万障お繰り合わせの上」というのは、日本人が昔から、催しを案内し、そこに招待するために手紙で使ってきた定型文です。
多くの言葉が時代とともにすたれていくのに、この表現が残ってきたのは、きちんとしていながら、同時にさまざまな場面で使える、便利な表現だったからでしょう。
ただ、現在では「お繰り合わせの上」という表現は、相手に対して失礼と感じ、避ける傾向もあります。
日本人が大切にしてきた美しい表現の使い方を学び、大切に受け継ぎながらも、今の感覚に合わせて、場面に合わせた言い換え方をしながらお使っていただければ幸いです。