「部長、この書類に目を通していただけますか?」
上司に書類の内容を確認してもらいたいとき、このような言い回しでお願いしていませんか?
丁寧語の「いただく」をつけて伝えていれば失礼にあたらないと思う人もいますが、この表現は間違いです。上司から「言葉の使い方を知らない失礼な部下」と思われているかもしれません。
「目を通す」という言葉、ビジネスシーンではものすごくよく出てくる言葉ですよね。だからこそ、よけいに注意が必要です。
ここでは「目を通す」の意味や敬語表現として目上の人に使っても正しいかをお伝えします。また、類義語や言い換え方についても、例文をあげて詳しく解説するので参考にしてくださいね。
「目を通す」の意味・使い方
「目を通す」(めをとおす)とは「一通り見る。通覧する。ざっと見る」という意味です。
「ざっと見る」という意味にもあるとおり、大体の内容を把握する程度の確認を依頼するときに「目を通してください」を使います。
イメージとしては軽く流し読みをしてもらうときですね。
そのため、一字一句を漏れなくじっくりと細かく見てほしいときは適切ではありません。例文を見て理解を深めましょう。
【例文】
(自分が主語の場合)
- 書類はざっとですが、目を通しておきました。
- 隅から隅まで目を通しましたが、問題の箇所は見当たりませんでした。
- 朝、新聞には目を通しましたが、そんな事故があったことは知りませんでした。
(他人に「目を通」してもらう場合)
- あらかじめ説明文全体に目を通し、それから作業に入ってください。
- 皆さん、この日程表に目を通して、当日のスケジュールを確認してください。
- お薬は、この説明書にちゃんと目を通して、この通りに飲んでくださいね。
- 運動会の準備に関しては、このプリントに目を通しておいてください。
自分を主語に「目を通した」ことを伝える場合は相手が誰であっても使えますが、「目を通してください」と相手に言う場合は、直接的に指示を出す表現になるため気をつけなくてはなりません。
部下や後輩といった目下の人や、指導を任された人に使うのであれば、この表現を使ってもかまいませんが、目上の人に伝えるときは命令のニュアンスが含まれるため、ほかの言い回しを使いましょう。
「目を通す」は目上に失礼!敬語ではない!
「目を通していただけますか」というお願いの表現は、目上の人に使って大丈夫でしょうか?
結論からお伝えすると、「目を通す」は敬語ではないので避けたほうがよいでしょう。なぜなら、「目を通す」という言葉が「一通り、ざっと見る」という意味だからです。
たとえば、資料を丁寧に読んでいても「一通り目を通しておきました」と言うように、あるいは「資料は読んでもらえましたか?」と聞かれて、資料を読み込み、下調べをしっかりしていても「だいたい目を通しておきました」と答えるように、「目を通す」の言葉には謙遜のニュアンスがあります。
一方、相手に「目を通していただけますか?」と頼む場合は、文字通り「一通り、ざっと見るという方法で確認してください」と相手に依頼することになってしまいます。「いただけますか」と謙譲語を使っていても、前の「目を通す」という表現が敬語にはならないために、目上の人にふさわしくないのです。
また、「目を通す」には軽く流し読みをするような意味が含まれることから、相手にそのような軽い行為を頼む言い方になってしまうため、目上の人に使う敬語としては不適切です。
【豆知識】「目を通す」という表現を一語の名詞にした言葉に「目通し」(めどおし)という言葉があります。これに丁寧語の「お」を付け、謙譲語の「いただく」をつけて「お目通しいただきたくお願い申し上げます」あるいはこれよりいくぶんカジュアルな感じで「お目通しいただければ幸いです」という表現をすることで、目上の人や年長者に対しても使うことができます。
「目を通す」の類語・言い換え表現
「目を通す」の類義語には下記の言葉があります。
- 一覧する:一通り目を通す
- 通覧する:全体に目を通す
また、目上の人に対して「目を通す」と言いたいときの言い換えとしては下記の表現があります。
- お目通しいただければ幸いです。
- ご覧ください。(見ることの尊敬語)
- ご一読ください。(「一通り読む」ことの尊敬語)
- ご笑覧ください。(人に見てもらう場合の謙譲語)
- ご高覧ください。(他人が見ることの尊敬語)
- ご清覧ください。(他人が見ることの尊敬語)
目上の人には上記の言葉の前に「お手数をおかけしますが」「恐れ入りますが」などのクッション言葉を置いて依頼すると、より丁寧な言い回しになるので覚えておきましょう。
さいごに
ここでは「目を通す」という言葉の意味を確認し、敬語としてはふさわしくないことを見ていきました。併せて「目を通す」の言い換えや類義語について、例文を見ながら解説しました。
敬語はむずかしいものですし、対面する人の反応を直接目の当たりにすることにもなります。その意味でプレッシャーもかかりますが、うまく使えるようになるためには場数を踏むことが不可欠です。言葉の意味を学びつつ、実際に使いながら、理解を深めていきましょう。