「憚られる」という言葉をご存知でしょうか。
あまり見かけない字なので、中には読み方に不安がある方もいらっしゃるかと思います。
ここでは、そんな「憚られる」の意味と使い方をご紹介します。例文も挙げているので、すぐにビジネスシーンで使うことができますよ。
是非、この機会に「憚られる」の使い方をマスターしてくださいね。
「憚られる」の読み方・意味
「憚る(はばかる)」の意味は、「差し障りをおぼえてためらう」です。
「憚られる」は、動詞「憚る」に自発の助動詞「れる」が付いて成り立っています。助動詞「れる」には受身・可能・尊敬・自発の4つの意味がありますが、「憚られる」の助動詞「れる」は自発です。自発の助動詞は、「その動作が自然に起こる」という意味を付け加えます。つまり「憚られる」は、「自分がそうするつもりはなくても、思わず遠慮してしまう」という意味を表し、低姿勢な態度や慎みを示すことができるフレーズなのです。
他にも、「憚る」の意味には「幅をきかす。増長する。いばる」「いっぱいに広がる。はびこる」があります。
「憚られる」の一般的な使い方(例文つき)
まず、「憚られる」の一般的な使い方についてご紹介します。
「憚られる」の基本的な使い方は、「〇〇するのは憚られる」という形です。「口にするのも憚られる」と使うことからもわかるように、「ある動作をすることを思わずためらってしてしまう」といった意味合いを持ちます。
また、一般的な使い方においては自発の助動詞「れる」を除いた、動詞本来の「憚る」の形でも頻繁に使われます。よく見かける「憚る」の代表的な使い方は、「人目を憚る」です。この「憚る」は、ある対象に遠慮するという意味を表しています。文脈によっては、「憚る」に「後ろめたさにためらう」「恥ずかしさのあまり気兼ねする」という意味合いを含む場合もあります。
他にも、身内に対する叱責に「憚る」を使うことがあります。「憚りなさい」は失礼なふるまいを咎めるフレーズです。慎む、遠慮する、感情を抑えるといった行為を促します。
「憚る」を使った代表的な慣用句には、いろはかるたでおなじみの「憎まれっ子世に憚る」があります。この「憚る」は、複数ある「憚る」の意味の中でも「幅をきかす。増長する。いばる」を指しています。つまり、「憎まれっ子世に憚る」は「人から憎まれるような人間のほうが、かえって世間では幅をきかせるものだ」という意味を表した慣用句なのです。
一般的な「憚られる」「憚る」を使った例文は、以下の通りです。
【例文】
- 閑静な住宅街に不釣り合いな、口にするのも憚られるような事件だった。
- その場で彼のミスを指摘しようとしたが、皆の前で指摘される彼のことを思うと憚られた。
- 平日の日中からお酒を飲むのは憚られたので、ソフトドリンクを注文した。
- 長年応援してきた球団の優勝に、人目も憚らずに号泣した。
- これからは、誰にも憚らず自由に生きたい。
「憚られる」のビジネスでの使い方(例文つき)
ここからは、ビジネスシーンにおける「憚られる」の使い方をご紹介します。
まず、「憚られる」は目上の人や取引先に自分の意見を伝える時に使います。
目上の人に対する発言、特に相手の主張と異なる意見を伝えるのはとても神経を使いますよね。そんな時に、前置きとして「憚られる」を使います。「私が言うのも憚られるのですが」「こんなことを言うのは憚られるのですが」といったクッション言葉を使うことで、発言を恐れ多く思う謙虚な姿勢を伝えることができます。
他にも、「憚られる」は、目上の人へ何かを依頼する場面でも使います。
依頼の際に「お忙しいところ憚られるのですが」「お手数をおかけし憚られるのですが」と一言断ることで、相手の手を煩わせる申し訳なさが表現できます。目上の人に対して依頼をする際は、相手への恐縮と配慮を示すために「思わず遠慮してしまう」というニュアンスを持つ「憚られる」を使うのです。
自分の力量以上の業務を引き受ける際には、自発の助動詞「れる」を除いた「憚る」を用います。
引き受ける際に、「憚りながらお受けさせていただきます」「憚りますが、精一杯努めます」と返答します。このように「憚る」を使うことで恐縮した謙虚な姿勢が示せるのはもちろん、大役を任せてもらったことへの感謝の意味合いを込めることができます。「憚りながら」「憚りますが」に続けて、引き受ける意思、嬉しさややる気を示す言葉を添えましょう。
「憚られる」は多用すると、言葉の重みがなくなってしまうため注意が必要です。
身近な上司に対しては「恐縮ですが」で十分に謙虚な姿勢が伝わります。軽々しく「憚る」を繰り返すことは、わざとらしい印象を与えるだけでなく、内容を伝わりにくくする恐れもあります。むやみに「憚られる」を使うことは控えた方が賢明です。
ビジネスでの「憚られる」を使った例文は、以下の通りです。
【例文】
- このような場で私が発言することは憚られるのですが、一言だけよろしいですか。
- お忙しいところ憚られるのですが、こちらの書類をご確認いただけますか。
- プロジェクトリーダーのお話、憚りながら謹んでお受けいたします。
「憚られる」の類語・言い換え表現
ビジネスシーンでは主にクッション言葉として用いられる「憚られる」ですが、その類語には以下のようなものがあります。
- 恐縮ですが:相手に迷惑をかけたり、相手の厚意を受けたりして申し訳なく思うこと。
- 出過ぎたことを言うようですが:差し出がましい発言をする。
- 僭越(せんえつ)ながら:自分の地位や立場を越えて出過ぎたことをすること。
上に挙げた類語はどれも「憚りながら」「憚りますが」の類語であり、謙虚な姿勢と相手への配慮を示すことができるフレーズです。それぞれどのような場面で使うのか、簡単に見ていきましょう。
「恐縮ですが」は非常に幅広いシーンで使われる言葉です。相手からの厚意や提案をもったいないと退けたり、こちらから何かをお願いする時に用います。「出過ぎたことを言うようですが」は、目上の人に分をわきまえない意見をする際に使うクッション言葉です。そして「僭越ながら」も目上の人に意見する際に使える前置きです。大勢の前で行うスピーチにおいて頻繁に用いられるフレーズでもあります。
なお、一般的な「憚られる」の使い方の類語には、「気兼ねする」「遠慮する」「慎む」が挙げられます。
さいごに
ここまで「憚られる」についてご説明してきましたが、いかがでしたか。
「憚られる」の「憚る」の意味は、「差し障りをおぼえてためらう」です。ビジネス上では、「憚りながら」「憚りますが」の形で用いることで、クッション言葉のような役割を果たします。基本的には、目上の人や取引先に自分の意見や依頼を伝える、実力以上の依頼を引き受けるといった場面で使います。ですが、「憚る」は何度も繰り返し使うと重みがなくなってしまうため、身近な上司に対しては「恐縮ですが」が適切です。
目上の人や取引先に、自分の主張を伝えるのは緊張するものですよね。そんな時に「憚られる」を使うと恐縮している姿勢を示すことができ、スムーズに発言することができますよ。
この記事を読んだ皆様が、「憚られる」を適切に使えるようになることを心より応援しています。