ビジネスシーンでは、取引先や上司から、何かを依頼されたり尋ねられたりすることが日常茶飯事です。
全て依頼を受けられる状況にあればよいのですが、事情により断らざるを得ない場面もあるでしょう。
断るときに「生憎(あいにく)ですが」という言い回しを使うことがあります。しかし、この「生憎」はビジネスシーンや目上の人に使っても失礼にあたらない表現なのでしょうか?
ここでは「生憎」の意味や使い方を詳しく解説します。類語やビジネスメールでの丁寧な断り方についてもお伝えするので参考にしてくださいね。
「生憎」の意味・使い方
「生憎」の読み方は「あいにく」です。
「生憎」の意味は「期待や目的にそぐわないさま。都合の悪いさま」です。
「あいにく」は古語では「あやにく」といい、感動詞の「あや」に形容詞の「憎し」がついた語幹です。「雨いとあやにくに(雨がほんとうに折あしく降ってきて)」という使い方をした語です。
つまり「生憎」は、元々は「ああ憎らしい」という意味で使われた語だったのです。それが時代の変化とともに変わり、都合が悪くて相手の期待に添えない状況のことを「憎らしい状況」という意味で使われるようになりました。
ニュースや天気予報では、天気が崩れるとき、「生憎の雨」「生憎の天気」「生憎の空模様」という表現でも使われますよね。
また、ビジネスシーンでは都合が悪いときや、相手の頼みを断るときに「すみませんが」「残念ですが」という意味で「生憎」を使います。
相手の頼みを断るとき、「生憎参加できません」「生憎都合がつきません」という使い方をするのが基本です。
丁寧な表現のため、上司や取引先など、目上の方にも使っても問題ありません。
「生憎」は形容動詞として「生憎だ」「生憎な〇〇」という使い方のほか、副詞として「生憎〇〇だ」「生憎の〇〇だ」と使います。
【例文】
- 申し訳ございません。生憎、佐藤は席を外しております。
- 生憎のお天気ですが、どうぞお気をつけて。
- 生憎の空模様ですが、スタッフ一同お待ちしております。
- 業務をお願いしたかったが、生憎、誰も都合がつかないとのことだった。
また、憎まれ口や皮肉を込めた表現として「お生憎様」という使い方もあります。「お生憎様」は相手の期待が外れたことをからかって言う使い方です。
「生憎」を使ったビジネスメールの断り方
「生憎」は「都合がつかない」とか「条件が合わない」ということを伝えたいときに、便利な言葉です。
では、断りのメールを送るときに、どのような書き方をすればよいのでしょうか。ここでは、相手の提案を断る際にどのように使うか、ビジネスメールの例文を紹介します。
ゴルフコンペの誘いを断るときのメール例文
件名:Re:ゴルフコンペのご案内 株式会社〇〇〇〇 いつも大変お世話になっております。 この度はゴルフコンペにお誘いいただき せっかくのお誘いにもかかわらず誠に恐縮ですが、 お気遣いを頂いておきながら また別の機会にご一緒させて頂ければ幸甚です。 まずはお詫びかたがたお返事を申し上げます。 ==================== |
「あいにく」を入れることによって断る理由を明確にしすぎず、かつ申し訳ない気持ちを伝えることができます。
社内飲み会の参加を断るときのメール例文
件名:歓迎会欠席のお詫び 〇〇課長 お疲れ様です。△△です。 歓迎会の案内をお送りいただき、 出欠の件ですが、あいにく当日は 〇〇社長との会食は来月から始まるプロジェクトの決起会も兼ねており、 一度、日程変更が可能か確認をしましたが、 大変申し訳ございません。 営業部に部署異動された〇〇さんにはお詫びし、 歓迎会の準備をして頂いているなか大変恐縮ですが、 取り急ぎ、歓迎会欠席のお詫びを申し上げます。 ==================== |
基本的な断りメールの書き方は、書き出しの挨拶→先方からの申し出に対するお礼→「生憎」+断りの事情・理由→締めの言葉となります。
その他の断りメールを確認したい方は「断りメールの文例集」をご覧ください。
「生憎」の類語
「生憎」の類語には下記のような言い換え表現があります。「生憎」の「時期が悪い」「タイミングが悪い」という側面に焦点を当てたものとして、以下のものがあります。
- 折あしく
- 折悪く(おりわるく)
- 運悪く
- 残念ながら
なお、「運悪く」には「偶然うまくいかなかった」というニュアンスがあるので、ビジネスシーンには不適切です。
【例文】
- 生憎、担当者が不在のため ⇒ 折あしく担当者が不在のため
- 生憎その時期は仕事が重なっており ⇒ 折悪くの時期は仕事が重なっており
- 生憎の雨となりましたが ⇒ 運悪く雨が降ってきてしまいましたが
- 生憎、当方の力量には限界があり ⇒ 残念ながら当方の力量には限界があり
「生憎」の対義語
「生憎」の対義語には下記の表現があります。
- 折よく
- 都合よく
- 運よく
- 幸運にも
タイミングの悪い時に「運悪く」を使うと、責任を回避しているようにも受け取られかねないので、ビジネスシーンでは避ける方が無難です。しかし逆の場合は、謙遜の意をこめて「運」を使うことができます。
【例文】
- 折よく在宅中だったため、緊急の用件にも対応できた⇔生憎外出していたため、緊急の用件が入ったが対応できなかった
- 都合よくタクシーが通りかかったので、いち早く現場に駆けつけることができた⇔生憎、足がなかったため、現場に到着するのが遅れてしまった
- 繁忙期ではありましたが、運よくその時期に海外から戻ってきた者がおり、案件にも対応することができました⇔繁忙期ということで、生憎、人手が足りず、その案件は見送らざるを得ませんでした
- 幸運にも景気上昇の追い風を受け、弊社は発展を遂げることができました⇔生憎の平成不況のまっただなかでしたが、弊社は地道な足取りで進んでまいりました
さいごに
漢字の中には、読み方を知っていなければ絶対に読めない漢字があります。「生憎」もそのひとつ。「生」は当て字なので、知っていないと読めませんよね。
ここでは「生憎」という言葉の意味と使い方、類語、また、目上の人に向かって使っても失礼な表現ではないということ、さらにビジネスメールでの断り方を、例文を挙げながら見ていきました。
日常生活ではほとんど使わない言葉ですが、お断りをするときなど、大変使い勝手の良い言葉です。ぜひ、ご活用ください。