「ご遠慮ください」という注意書きを街中で目にしたり、アナウンスを耳にしたことはありませんか?
「場内での喫煙はご遠慮ください」「無断駐車はご遠慮ください」「携帯電話のご使用はご遠慮ください」などと禁止事項を伝えるときの表現として使われていますね。ビジネスシーンでも取引先の相手やお客様に「ご遠慮ください」ということもあると思います。
「遠慮」という言葉に「ご」と「ください」をつけていることから、丁寧な言い方に聞こえますが、実は場合によっては失礼にあたる強い表現なことはご存知でしたか?
また、よく似た表現に「お控えください」や「おやめください」などの言葉もあります。これらはどのようなときに使うのが適切なのでしょうか。
ここでは「遠慮」「ご遠慮ください」の意味や使い方を詳しく解説します。「お控えください」「ご容赦ください」「おやめください」との違いについてもお伝えするので参考にしてくださいね。
目次
「ご遠慮ください」の意味・使い方
「ご遠慮ください」の「遠慮」の意味は下記の4つです。
- 他人に対して言葉や行動を控えめにすること。
- 辞退すること。また、ある場所から引き下がること。
- 遠い将来までを考えること。
- 江戸時代、武士や僧に科した刑罰のひとつ。
上記のうち、「ご遠慮ください」で使われるのは「他人に対して言葉や行為を控えめにすること」「辞退すること。また、ある場所から引き下がること」の意味ですね。
ですが、注意しなくてはならないことがあります。「ご遠慮ください」は「控えめにしてくださいね」という柔らかいニュアンスの言葉ではなく、「自制して、やめてください」「しないでください」と禁止を強要する言葉なのです。
街中の看板や、電車に乗ったりすると下記のような注意書きを目にすることがあります。
- 店内での喫煙はご遠慮ください。
- こちらは関係者出入り口となりますので、駐車はご遠慮ください。
- 車内での通話はご遠慮ください。
- お車でのご来場はご遠慮ください。
- ご遺族の意向により、お通夜、葬儀の参列はご遠慮下さい。
これらは「ご遠慮ください」と書いてあっても「遠慮がちにならやってもいい」ということではないので使うときは気をつけましょう。
「ご遠慮ください」は間違った日本語?
そもそも「遠慮」とは、自身の言動を控えるときに使う表現です。「今日は遠慮しておきます」「では、遠慮なくいただきます」などの言葉を使ったことがあると思います。
日常生活に溶け込んでいる「ご遠慮ください」という表現は、実は相手の言動に対して使う言葉ではないため、間違った使い方をした言葉といわれています。
また、「ご」と「ください」をつけた丁寧な言い回しに思えますが、「ご遠慮ください」は敬語表現でありながら、相手に遠慮を強要するという、少しおかしな表現でもあるのです。
しかし、厳密には間違いですが、今では「やめてください」の敬語として、許容された表現でもあります。
「ご遠慮ください」という表現は社会で広く使われており、受け取った側も意味を理解できることから、あながち「間違い敬語」ともいえなくなっているのが現状です。
「ご遠慮願います」も間違い?
「ご遠慮ください」の言い回しを変えた表現に「ご遠慮願います」があります。
こちらも同様に、「遠慮」は本来自分の行為に対して使う言葉のため、国語として間違った表現です。相手に対して「遠慮なさらずに」と使うことはあっても、相手に遠慮を強要する言い回しは傲慢な印象を与えることもあるため気をつけましょう。
ただし、「ご遠慮願います」も「ご遠慮ください」と同様、社会的に許容された表現なので使用しても問題ありません。
「ご遠慮ください」と「お控えください」の違い
「お控えください」の「控える」には下記の4つの意味があります。
- 度を越さないように分量や度数などを少なめにする。
- 自制や配慮をしてやめておく。
- 念のため書き留めておく。
- 用事や順番に備えてすぐそばにいて待つ。
「お控えください」で使われる主な意味は「自制や配慮をしてやめておく」「念のため書き留めておく」ですね。
「お控えください」は「ご遠慮ください」とは違い、自分の行為にも他人の言動にも使える表現です。また、日本語としても正しい表現です。
【例文】
- 駐車場がありませんので、自家用車での来場はお控えください。
- 公演中の私語はお控えください。
- 店内での撮影はお控えください。
- 公園内で、他人の迷惑になる行為はお控えください。
「ご遠慮ください」と「お控えください」の大きな違いは、漢語か和語かという点です。
漢語とは、中国から伝わって日本語になった言葉や、漢字の音を組み合わせて作られた言葉のことです。漢語は響きがかたく、かしこまった印象になるため書き言葉によく使われます。
「遠慮」は漢語に属する言葉です。
和語とは、元々日本で使われていた固有の言葉で、大和言葉などとも呼ばれます。漢語よりも柔らかな印象になります。「控える」は訓読みで和語になります。
日本語には、「遠慮」と「控える」のように同じ意味をもつ言葉でも、漢語と和語に分かれます。「希望・望み」「謝罪・お詫び」「借用・借りる」などが一例です。
漢語は固くあらたまった印象となり、和語は柔らかい印象を相手に与えることから、お客様や目上の方に伝える場合は和語を使うことで、相手の方も気持ちよく受け入れられやすいといわれています。
どちらが強い表現?強制力はある?
「ご遠慮ください」と「お控えください」の2つの表現は、どちらも相手に禁止を強要するときに使う言い回しですが、結論からお伝えすると「ご遠慮ください」の方がより強い表現となります。
先ほど説明した漢語と和語の違いでも、「ご遠慮ください」の方が固い印象を与えることをお伝えましたが、理由はそれだけではありません。
そもそも「遠慮」には、「他人に対して言葉や行動を控えめにする」という意味があります。それを相手に強要することは「こちらからお願いしなくても自制して控えてください」という意味合いになり、「やらないでほしい」という思いが、より強く伝わる言い回しになるのです。
ただし、「お控えください」の表現なら「控えめならやってもいい」「遠慮ぎみにやってもいい」というわけではありません。「ご遠慮ください」と「お控えください」のどちらも「やってはいけない」という意味になることは覚えておきましょう。
【例文】
- 会場内での携帯電話のご使用はご遠慮ください。
- 会場内での携帯電話のご使用はお控えください。
「ご遠慮ください」と「ご容赦ください」の違い
「ご容赦ください」は、相手に過失や失敗などについて許しを請うときに使う表現です。許してほしいときに下記のような言い回しで伝えます。
- この度の不手際、何卒ご容赦ください。
- ご容赦くださいますようお願い申し上げます。
「ご遠慮ください」は、相手に対して言葉や行為を控えめにすることをお願いするときに使う表現のため、「ご遠慮ください」と「ご容赦ください」は使う場面が異なります。
「ご容赦ください」の意味や使い方を詳しく知りたい方は『「ご容赦ください」の意味・使い方』をご覧ください。
まとめ
様々な場所で見かける「ご遠慮ください」や「お控えください」という表現。
「やってはいけません」「お断り申し上げます」と直接的な表現より、相手を気遣いながら控えてもらうようお願いする、日本語らしい独特の言い回しです。
しかし、「ご遠慮ください」は国語的に違和感のある表現です。一般的に認知されている表現ではありますが、「お控えください」を使用した方が無難かもしれません。
また、「お控えください」に比べて「ご遠慮ください」のほうがより強く禁止をお願いする言い回しだということも分かりました。シチュエーションによって、微妙な違いのあるこの2つの表現を上手に使い分けてくださいね。