ビジネスシーンや新聞、ニュースなどで「便宜を図ってくれ」「便宜上、表記の仕方を変更しております」という言葉を見聞きして「どういうこと?」と戸惑った経験はありませんか?
「便宜」という言葉には2つの意味があり、その両方をきちんと理解しておかなければ正しく使いこなすことができません。「便宜」の使い方がわかれば、交渉やプレゼンの席でも、端的に説明することができるようになります。
ぜひこの機会に「便宜」の意味や使い方を知り、マスターしてください。頻出語である「便宜を図る」の意味や、類語についても紹介するので参考にしてくださいね。
「便宜」の意味・使い方
「便宜」は「べんぎ」と読みます。意味はふたつあり、(1)あることをするのに都合の良いこと、便利なこと、(2)相手やその場の状況にふさわしい特別な処置のことです。
例えば、「消費者の便宜を考慮して」と言えば、「消費者にとって便利なように」という(1)の意味になります。よりかみ砕いた意味は「消費者が買いやすいように」です。
この意味から派生して、「便宜」を中心に考えたり行動したりすることを「便宜的」といいます。「便宜的」は「本質的」「根本的」の対義語として使われ、「便宜的な処置」という使い方をすれば、適切というよりもむしろ「一時的に都合の良い処置」「一時的に便利な処置」というニュアンスが強くなります。
また、「便宜上」という使い方もあります。「便宜上、賛成の意見にしておく」は、「本当は反対なのだけれど、状況から見て賛成の方が良いので…」というニュアンスになるのです。
「便宜」に「的」や「上」がくっつくと、あまり良い意味ではなくなってきますね。(2)の「特別な処置」という意味で使われる場合は、以下に述べる「便宜を図る」という表現などが代表的です。
【例文】
- 便宜を考慮して、原文にはない読み仮名を挿入しています。
- そんなものは便宜上の措置に過ぎない。
「便宜を図る」とは
「便宜を図る」は「相手に対して特別な配慮をした処置を取ろうと意図し、その実行に取りかかる」という意味です。
今日、新聞や報道などで「便宜を図る」という表現を見ると「取扱業者に対して便宜を図った疑いで」というように、収賄などに関連して使われることが多いため、ネガティブで悪いイメージがついている言葉ですが、下記例文のように、配慮を必要とする人に対して、適切な対応をすることを指す場合にも使われます。
【例文】
- 障害者が利用する際の便宜を図ることによって
- 働く女性に対しては、託児施設の設置運営などの便宜を図り
- 通勤客の便宜を図り、混雑緩和に向けてダイヤ改正を行った
客観的な表現であれば、悪い意味に捉えられることなく使うこともできるのですが、「この言葉から悪い意味合いしか感じない」という人も実際にいるために、自分や目上の人に関連する表現としては避け、「配慮」「お取り計らい」などの言い換え表現を使った方が良いでしょう。
×:このたびはご便宜を図っていただき、心より感謝申し上げます。
⇒このたびはご配慮いただき、心より感謝申し上げます。
⇒このたびはお取り計らいいただき、心より感謝申し上げます。
「便宜」の類義語・言い換え
つづいては、便宜の類義語を紹介します。
【類義語】
- 便利
- 都合の良い
【例文】
- 参加者の便宜を図り
- 参加者にとって都合が良いように
- 参加者にとって便利なように
「便宜」は「都合が良い」「便利」に言い換えることができます。簡潔な表現ではなくなりますが、聞き慣れた言葉のため、わかりやすくなります。
【類義語】
- 利便性
- 便益
- 有用
【例文】
- 歩行者の便宜を考えて
- 歩行者の利便性を考えて
- 使用者の便宜という観点から
- 使用者の便益という観点から
- 使用者にとって有用な観点から
「便宜」と同様に言い換えることができます。これらは漢語のため、簡潔に表現できます。
【類義語】
- 取り計らう
- 計らう
【例文】
- 何卒ご便宜を図ってくださいますようお願い申し上げます。
- 何卒お計らいくださいますようお願い申し上げます。
「便宜を図る」の言い換えとして、聞き手に悪い印象を与えたくない時、この言葉を置き換えることができます。
【類義語】
- 融通
- 用立て
【例文】
- 流通業者に便宜を図って、資金を用立てる。
- 流通業者に融通し、資金を用立てる。
「便宜を図る」の言い換えで、金銭面に焦点を当て、贈収賄に関連するケースでは、この二つを使うことができます。
「融通」は「臨機応変に相手のために処理すること」、「用立てる」は「相手に役立てる」という意味ですが、共に近年ではお金を相手のために立て替える、用意する、といった意味で使われます。
便宜と忖度の違いは?
「忖度」は「他人の心を推し量る」という意味です。「便宜」は「あることをするのに都合の良いこと、便利なこと」という意味のため、混同しがちですが、両者の言葉の使い方には大きな違いがあります。
「忖度」は、相手の心情を推し量ることを表すのに対し、「便宜」は相手の状況を推し量ったうえで何かの処置をすることをいいます。
そのため、国会答弁などで議員の不正を暴くときに「忖度したのでは?」という質問の仕方をする方もいますが、この場合は「便宜を図ったのでは?」という使い方が正しいといえます。
忖度の正しい使い方を知りたい方は「忖度の意味・使い方」をご覧ください。
まとめ
「便宜」と「便宜を図る」という言葉の意味と使い方を理解していただけたでしょうか。
言葉は使う場面や状況によって、本来の意味合いを変えていきます。
今日のように「便宜」という言葉が、ニュースなどで悪い意味の文脈で用いられることが増えた場合には、こちらが相手に便利なように「便宜」を考え「便宜を図る」と表現した場合でも、誤解されるケースもあります。
ですから、ここに挙げた類義語を元に、文脈や状況、相手に合わせて言い換えを行っていただけたら幸いです。