「鑑みる」という言葉、意味や正しい使い方を理解していますか?
実は「状況を鑑みて」「先例を鑑みて」「重要性を鑑みて」といった使い方は、すべて誤用表現です。
ビジネスシーンで使うことの多い言葉だけに、正しい用法を理解しておくことが大切です。ここでは「鑑みる」の意味や使い方について、例文つきで詳しく解説しています。また、似た言葉である「考慮する」との違いや、類義語も紹介するので参考にしてくださいね。
「鑑みる」の意味・使い方
「鑑みる(かんがみる)」は「手本に照らして考える。他とくらべ合わせて考える」という意味です。
意味は漢字の成り立ちからも理解することができます。「鑑みる」の「鑑」には「手本、規範」といった意味があり、そこから転じて「照らす」「参考にする」「比較して考える」と表されるようになりました。
そのため、「鑑みる」は、手本や先例といった、比べられるものを引き合いに出して考えたり判断したりするときに使います。
正しい使い方は「〜に鑑みる」「〜に鑑みて」
冒頭でもお伝えしたとおり、「状況を鑑みて」「先例を鑑みて」「重要性を鑑みて」といった「〜を鑑みる」の使い方は間違いです。この誤用表現は、意味が似た「〜を考える」「〜を考慮する」という言葉と、使い方を混同してしまっていることが主な原因といわれています。
正しくは、格助詞は「に」を用いて「〜に鑑みる」「〜に鑑みて」の用法です。また、使い方に迷ったときは「〜に鑑みる」を「〜に照らして考える」に言い換えてみましょう。正しい使い方は下記の例文を参考にしてください。
【例文】
- 米国のITベンチャー企業の成長性に鑑みると、日本の起業家への支援体制は十分とはいえない。
- 他社の検査データ改ざんをめぐる不祥事に鑑みて、当社ではチェック体制の厳格化を協議した。
- 事態の進展に鑑みて、当初の計画を大幅に変更せざるを得ないだろう。
なお、「鑑みる」を使ったビジネスメールを確認したい方は「値引きの依頼メールの文例集」をご覧ください。
「鑑みる」と「考慮する」の違い
「鑑みる」と「考慮(こうりょ)する」を混同して使う方は少なくありません。ビジネス文書などで堅い言い回しが好まれる場面では「鑑みる」を使うという方もいますが、厳密には両者の意味には違いがあることから、使うシーンも異なります。
- 鑑みる:手本に照らして考える
- 考慮する:いろいろな要素を考え合わせること。思いめぐらすこと。
上記したそれぞれの意味から、ニュアンスの微妙な違いについても読み取ることができますが、両者の違いを一言でいうと「比較対象の有無」です。
「鑑みる」は、何か別の物事と比べたり照らし合わせたりした上で考えるという行為である一方、「考慮する」は様々な要素を考えに入れるものの、比べる対象がない場合に使う言葉なのです。
【例文】
- 昨年の売上実績に鑑みた結果、今年はメンバーを増員して活動の幅を広げることが役員会で決定した。
- A社を取り巻く複雑な事情を考慮した上で、販売価格の減額改定を実施することが決まった。
「鑑みる」の例文では「昨年の売上実績」という先例を参考にした結果、メンバーの数を増やしたほうが良いという結論が出たことを表しています。また、「考慮する」の例文は「取引先の事情」を考えに入れた上で価格の値下げ実施を決めたことを述べていますが、手本や先例と比較したわけではないようですね。
「鑑みる」の類義語・言い換え表現
では次に、「鑑みる」の類義語を挙げていきます。
- 顧みる(かえりみる)
- 振り返る
- 回顧(かいこ)する
- 念頭に置く
- 参考にする
- 照らし合わせる
- 考慮する
- 勘案する
- 計算に入れる
- 踏まえる
「顧みる」「振り返る」「回顧する」は、どれも過去のことを思い返している様子を表します。思い返した過去と照らし合わせて何か新しい案を考えているわけではありません。また、「念頭に置く」「参考にする」「踏まえる」は、何かを考えに入れた上で新しい案を出すわけですが、必ずしもそれが過去に起こった出来事や模範でなくても構いません。
やはり先例と比較して考える行為には、「鑑みる」という言葉がピッタリと当てはまるのです。
まとめ
「鑑みる」の意味や使い方は理解できましたか?
「あなたは医者の鑑(かがみ)だ」なんていうシーンでも使う「鑑」には「手本・模範」という意味があるので、関連付けて覚えておくといいですね。
ビジネスでも日常生活でも、意外と「鑑みる」機会は多いと思います。
これまでは「考慮する」「参考にする」という言葉を使っていた方も、「鑑みる」との違いが分かれば、今後はより適切に表現できるようになるでしょう。「鑑みる」を使う際は、くれぐれも「〜に鑑みる」と、格助詞に「に」を使うことを忘れないでくださいね。