相手に何かをしてもらったとき、「わざわざすみません」「わざわざありがとうございます」などと感謝の気持ちを伝える場面があります。
配慮してくれた相手に謝意を示すとき、咄嗟に出てきそうなこの言葉、誰しも一度は口にしたことがあるのではないでしょうか?
この「わざわざ」は、使う場面を間違えると、嫌味に聞こえてしまうことがある要注意な言葉です。思わず口にしてしまう可能性がある言葉なので、気をつけておきたいですね。
ここでは「わざわざ」の正しい意味や使い方について解説します。類義語や、言い換える際に使える言葉も紹介するので参考にしてくださいね。
「わざわざ」の意味・使い方
「わざわざ」は「他のことのついでではなく、特にそのためだけに行うさま」と「しなくてもよいことをことさらするさま」という2つの意味があります。
前者は「善意からなにかをする」といった親切な印象を受けますが、後者は「余計なことと分かりながらあえてやってやる」といった、少々お節介な印象を受けますね。
特にこの後者の意味合いが強い場面で使用されるとき、「わざわざ」は嫌味っぽく聞こえてしまうようです。
では、なぜひとつの言葉で、ふたつの意味を持ってしまったのでしょうか?その理由は「わざわざ」の語源にありました。
「わざわざ」の語源
「わざわざ」は文字で書くと、ひらがなで書くのが一般的でしょう。
「わざわざ」は漢字に変換すると、「態々」もしくは「態態」となります。「態」の漢字には「ふるまい」「意図的になにかをする」という意味が含まれるのですが、古語には「わざわざし(態々し)」という言葉があり、これが「わざわざ」の由来になったとされています。
つまり「わざわざ」の由来である「わざわざし(態々し)」は、「ことさら意識した様子」「わざとらしい」という、少しネガティブな意味を持つのです。
「故意になにかをする」は、前述した「他のことのついでではなく、特にそのためだけに行うさま」という親切な意味としてとらえることもできますが、もうひとつに意味である「わざとらしい」となると、嫌味な印象のニュアンスがぐっと強くなりますね。
とは言うものの、「意図的になにかをする」というのは、「相手に配慮して労力をかける」とも「しなくてもよいことをあえて行う」ともとれる、なんとも曖昧な表現です。この曖昧さが、「わざわざ」にふたつの意味を与えてしまったのでしょう。次章では、どのような使い方がOKでNGか、詳しく見ていきましょう。
「わざわざ」の敬語の使い方
まず初めに、冒頭でご紹介した「わざわざすみません」は、目上の人に使っても失礼にはあたらない表現です。
「わざわざ〇〇してくださり、ありがとうございます」という表現は、相手の気遣いに応える丁寧な表現となります。「他のことのついでではなく、特にそのためだけに行う」と同義になるわけですね。
しかし、使い方には注意しなくてはなりません。「わざわざ〇〇していただかなくても構いません」という伝え方はNGです。「あえてしなくてもいいことをしないでください」というニュアンスになり、「余計なお世話です」という意味で伝わってしまいます。
相手が善意でなにかしてくれようとしていた場合に、こう言って断ってしまうと、相手はきっと不快な思いをすることでしょう。使い方の注意として、以下の2点を覚えておくとよいですね。
【使うときのルール】
- 相手が特別に時間を使ってなにかしてくれた場合に、「感謝」を伝える意味で「わざわざ」を使うのはOK。
- 相手がなにかしてくれることに対して、「遠慮・断り」を入れるときの「わざわざ」はNG。
「わざわざ」の自分への使い方
「わざわざ」は、自分の行為についても使える言葉ですが、こちらもなかなか注意が必要です。説明の前に例文を見てみましょう。
【例文】
- 繫忙期で多忙だったが、わざわざ作業を手伝った。
- 明日の会議に備えて、わざわざ資料を作っておいた。
- 電話をすればよかったが、わざわざ出向いて用件を伝えた。
なんとなく「やってやった」「面倒だけどそうした」という、かなり上から目線な印象となってしまいますね。印象も悪くなるので、たとえ「わざわざ」と感じる場面であったとしても、あえて使わないほうがよいでしょう。
「わざわざ」の言い換え・類語表現
「わざわざ」は、使い方や場面、受け取り手の印象次第では嫌味さが際立ってしまうため、あえて使う必要がない言葉とも言えそうですね。誤解を与えないためにも言い換えて使用するのがおすすめです。
「わざわざ」を感謝の意味で言い換え表現のパターンは下記のとおりです。
- 「わざわざ」を抜いて伝える
- ご丁寧に
- お忙しい中
- ご多忙にもかかわらず
【例文】
- ご丁寧にお手紙までお送りくださり、誠にありがとうございました。
- お忙しいところお越しくださり感謝申し上げます。
- ご多忙にもかかわらずご足労いただき、誠にありがとうございます。
「わざわざ」を「ご丁寧に」や「お忙しいところ」に言い換えただけですが、ずいぶん柔らかい表現になったと感じませんか?なお、「わざわざすみません」のような謝罪の意味で使う際の「わざわざ」は、「せっかく(折角)」と言い換えることができます。
【例文】
- せっかくお時間をいただきましたのに、ゆっくり話すことができず申し訳ございません。
- 折角お誘いいただいたにもかかわらず、参加できずに申し訳ございません。
まとめ
日常会話やビジネスシーンでもよく耳にする「わざわざ」は、使い方次第で相手に嫌味な印象を与えてしまう、なんとも難しい言葉でしたね。ひとつの言葉で、よい意味も悪い意味も持っているとは、なかなか手ごわいです。
せっかく敬語で丁寧に使ったつもりでも、「わざわざ」ひとつで台無しになってしまっては、かなり悲しい気持ちになりそうです。
言い換え方もたくさんあるので、しっかりと使い方を理解できているという自信がなければ、あえて使わなくてもよい言葉だと言えるでしょう。