「かくじん、てきぎしょりしておくように」
会議の最後に上司からこの言葉を投げかけられたとします。あなたはとっさに何を言われているかわかりますか?その言葉がパッと「各人、適宜処理しておくように」と脳内変換され、適切に返事をすることができますか?「適宜処理」って一体どんな処理のことなんだろうと、戸惑うことはないでしょうか?
ビジネスシーンでは、日頃、耳にすることもないような言葉が、数多く登場します。専門的なビジネス用語なら上司に教えてもらえたとしても、「ビジネスシーンにおける日常語」は、自分で理解し、覚えながら使えるようになっていくしかありません。この「適宜(てきぎ)」もその一つ。「適時(てきじ)」と音が似ているため、混同されることが多い言葉です。
ここでは「適宜」と「適時」の意味や使い方をご紹介します。また、「適時」の類語である「随時」との違いや使い分け方、さらに近年、頻繁に使われるようになってきた「適時適切」の言葉の意味と使い方も、お伝えしますので、例文を参考にしながら一緒に見ていきましょう。
「適宜」の意味
適宜(てきぎ)には、2つの意味があります。
- 1.その状況やその場面によく合っていること。また、その様子。
- 2.各自の判断で良いと思う行動を取ること。また、その様子。
この言葉は「ふさわしい」ということを、公的な場で簡潔に伝えたい場合、たとえば冒頭で挙げたように、会議の最後に今後すべきことを短くまとめて告げたいときなどによく使われます。また、話し言葉ではなく書き言葉であるため、文書で見る機会も多い言葉です。
さらに、2.のように「ふさわしい」から意味が広がって、「その人がふさわしいと思って行動すること」の意味で使われる場合もあります。例文の3番目に当たるのが、その用法です。
【例文】
- 「その件については、各人で適宜処理しておくように」と部長から申し送りがあった。
- 未経験者には適宜個人指導を行う。
- 適宜食事を取ってください。
「随時」の意味
適宜に意味の近い言葉として「随時(ずいじ)」があります。随時の意味は下記の2つです。
- 1.いつでも
- 2.その時々
この言葉に続く動作の主語となっている人にとって都合が良い時、好きな時いつでも、という場合と、必要に応じたその時々の両方の場合で使われる言葉です。
【例文】
- 1.必要の際は随時こちらからうかがいます。
- 2.アルバイトを随時募集しています。
- 3.当校は随時入学可能です。
※2.は、もともとは4月募集などと時期を決めた募集ではなく、欠員ができたなど「募集する側の必要があった場合に」という意味で、「いつでも」ではありませんでした。ところが現在は「随時募集中」として「いつでも募集しています」という意味で使われることが多くなっています。
「適時」の意味
適宜と似ていてまぎらわしい言葉に「適時(てきじ)」があります。適時とは「ちょうど良いとき」という意味です。
新聞の見出しなど、時数の限られているときに、タイムリーヒットのことを「適時打」と書くように、適時とはタイムリーという英語がぴったりと当てはまる言葉です。
「適」という言葉には「ふさわしい」という意味がありますが、ふさわしい人材のことを「適材」、ふさわしい場所のことを「適所」というように、ふさわしい時が「適時」なのです。
【例文】
- 1. 適時に席を立つ。
- 2. 適時連絡する。
- 3. 適時、適所、適材の3つの条件を考慮する。
「適宜」「随時」「適時」の違い・使い分け方
以上のことをふまえて、「適宜」「随時」「適時」の違いと使い分けを、例文を見ながら整理していきましょう。
- 適宜:未経験者には適宜個人指導を行う。
- 随時:随時入学可。
- 適時:適時に席を立つ。
上記の例文からわかるように、「適宜」という言葉が焦点を当てるのは「ふさわしい・必要な」という意味合いです。文の主語となる人(例文であれば個人指導を行う人)の判断が前提となっているのです。「適宜処理するように」と言われたら、処理が必要か、必要であればどんな処理をすべきか、ふさわしい対応をあなたが判断してください、という意味が込められています。「適宜やっておくように」と指示されたら、あなたも一人前と認められたということかもしれませんね!
それに対して「随時」が焦点を当てるのは「ふさわしい・必要な時はいつでも」ということです。文の主語となる人(例文であれば、入学する人)が「そうしたい、今自分には必要だ」と思ったときに、そうすることができる、ということです。
「適時」が焦点を当てるのは、「随時」よりもっとピンポイントの「時」、状況やその人の判断など、さまざまなことを考慮して、行為する人が「今だ!」と判断した時を意味します。
「適時適切」とは
「適時適切(てきじてきせつ)」とは、「多くの人に重要な影響を与える情報や、意見の表明について、開示する時が適切である、またその内容も適切なものである」という意味の言葉です。
現代は企業や政治の透明性が求められる社会です。必要な情報やこれからの方向性などの情報は適切な時期にきちんと明らかにすることで、社会的責任を果たし、信用を得る、この言葉にはそうした意味合いが込められています。
【例文】
- 1. CSR(企業の社会的責任)を踏まえ、企業情報は適時適切に開示いたします。
- 2. 消費税の増税に関しては適時適切に判断します。
- 3. 状況に応じて適時適切な措置を講ずる必要がある。
まとめ
状況に合うという意味の「適宜」、いつでもという意味の「随時」、ちょうど良いという意味の「適時」、開示のタイミング・内容が適切であるという意味の「適時適切」、それぞれの言葉の意味や使い方について、ご理解いただけたでしょうか。
こうした言葉を正確に理解するだけでなく、自分でも適切に使うことができるようになれば、冗長さを避けることができ、文書作成に役に立つだけでなく、会議の場でも「デキる」ビジネスマンという印象を与えることができるはずです。ぜひ身に付けてくださいね。