日常生活のなかで馴染みの薄い言葉は、正しい意味を知る機会がなかなかないですよね。「老婆心ながら」もそうした言葉の一つではないでしょうか。
ビジネスシーンで上司や先輩から「老婆心ながら…」とアドバイスや注意を受けたことはありませんか?
「老婆の心」と書く言葉ですが、どのような意味を持つのでしょうか。
ここでは「老婆心ながら」の意味や使い方について詳しく解説します。また、目上の人に使ってもよい言葉なのか、「老婆心ながら」を言い換えるとどのような言葉があるのかなどについてもお伝えするので参考にしてくださいね。
「老婆心ながら」の意味・使い方
「老婆心」の読み方は「ろうばしん」です。
結論を先にお伝えすると、「老婆心ながら」とは「必要以上に心配して、度を越してあれこれと気を遣うこと」という意味です。
「老婆心」は「年とった女性が度を越してあれこれと気を遣うこと」という意味があり、その「老婆心」に「~にもかかわらず、~ではあるが」を意味する「ながら」を付けることによって、「おせっかいではあるけれど」と謙遜している気持ちを表します。
純粋に心配する気持ちで口を出すことが、相手からするとそれがお節介になってしまうことがありますが、そんなとき、「老婆心ながら」と前置きを入れることによって、必要以上に世話を焼こうとする自分の気持ちをへりくだって表現する言葉として使えます。
「老婆心ながら」は、助言や忠告する時に前置きとして使われるフレーズです。
【例文】
- 老婆心ながら言わせてもらいますが、その点は修正が必要かと思います。
- もう少し経費を節約した方が良いのではと、老婆心ながら思いました。
- 老婆心ながら、彼の将来を心配している。
「老婆心」には「老婆」という言葉が含まれていますが、女性に限らず、男性も使える表現です。
「老婆心ながら」は目上の人に使える?言い換え表現は?
「老婆心ながら」は、誰かにアドバイスや忠告する際に、謙虚な気持ちを示す表現だと伝えました。この言葉は誰に対しても使える言葉なのでしょうか?
結論からお伝えすると「老婆心ながら」は目上の人に対しては使えません。
「老婆心ながら」は、先輩や上司、年上の人が「豊富な経験をもとに、おせっかいではあるけれど伝えます」というニュアンスで、目下の人に意見を述べるときに謙遜して使う表現なのです。
では、部下や後輩など、目下の人から目上の人に意見する場合、どのような言葉が使えるのでしょうか。目上の人に使える言い換え表現は下記の通りです。
【言い換え表現】
- 僭越ながら
- 恐れながら
- 失礼ですが
- お言葉ですが
- 大変申し上げにくいことですが
- 失礼を承知の上で申し上げますが
- 出過ぎた事を申すようですが
目上の人に進言するときは、こうした前置きを入れて失礼にならないように気を付けましょう。
なかには目下の人の意見に、気分を害してしまう人もいます。それによって場の空気が悪くなったり、相手の反応が良くなかったりしたときは「出過ぎた事を申しましてすみません」「出過ぎた真似をいたしまして申し訳ございません」とお詫びの言葉を一言添えましょう。
【例文】
- 僭越ながら、私から再度説明させていただきます。
- 恐れながら、事実と異なる点がございます。
- 失礼ですが、電話番号をおかけ間違いではないでしょうか。
- お言葉ですが、現時点での変更は締め切りに間に合わない恐れがあります。
- 失礼を承知の上で申し上げますが、そこはA案の方が適切かと思います。
- 出過ぎた事を申すようですが、プロジェクトを成功に導くためとご理解いただければ幸いです。
「老婆心ながら」の類語
「老婆心ながら」には、以下のような類義語があります。
【類語】
- 蛇足ですが
- 余計なお世話ですが
- おせっかいながら
- 念のため
どの言葉も、忠告や助言をする際に「おせっかいではあるけれど」とへりくだる表現のため、相手に与える印象を和らげることができます。
度重なるアドバイスや細かすぎる助言は、あまり良い顔をされないこともあります。ですが、これらのクッション言葉を前置きとして使うことにより柔らかい印象を与えることができるでしょう。
【例文】
- 蛇足ですが、あちらの名簿にも目を通しておくと安心かと思います。
- 余計なお世話ですが、作業の進め方を再検討した方が良いでしょう。
- おせっかいながら、資料をまとめておきました。
- 念のため確認しておきますが、出席者は40名です。
「老婆心」の対義語
「老婆心ながら」には、ずばりこれという対義語はありません。
そのため、ここでは「老婆心ながら」の意味やニュアンスから、似た意味の言葉を紹介したいと思います。
まず、「老婆心」の意味である「度を越してあれこれと気を遣うこと」を好意と捉えると、対義語のひとつは「悪意」となります。また、「老婆心」を「年を重ねて得た経験からの忠告」という面でとらえると、「若輩者」「未熟」という対義語が当てはまります。
さらに、「老婆心ながら」の類語の意味を確認してみると、別の対義語が浮かんできます。
- 蛇足:付け加える必要のないもの。無用の長物。
- 余計なお世話:不必要なおせっかい。他人の助言や手助けを拒絶するときに言う。
- おせっかい:出しゃばって、いらぬ世話を焼くこと。
- 念のため:不測の事態に備えて準備しておくさま
- 僭越:自分の地位や立場を越えて出過ぎたことをすること。また、そのさま。
上に挙げた類語の意味からあえて「老婆心ながら」の反対語を挙げるとすれば、「必要な」「無関心」「気がきかない」「妥当な」「正当な」という言葉が対義語に当たります。
他にも「老婆心ながら」が表している謙遜している気持ちに注目してみると、「率直に申し上げますが」という前置きも対義語になると言えます。
いずれにしても、「老婆心ながら」に含まれている単なる好意だけではない微妙なニュアンスを考慮すると、対義語としてふさわしい言葉はないといえるでしょう。
さいごに
ここでは「老婆心ながら」の意味や使い方についてお伝えしましたが、いかがでしょうか。
目上の方には使える言葉ではないので、後輩や部下といった目下の人に、お節介じみた言葉を投げかけるときの前置きに使いましょう。
上司や先輩には「僭越ながら」や「失礼とは承知の上で申しますが」といったクッション言葉をいれて、謙虚な気持ちを伝えるようにしてくださいね。