何かものをもらった際、「いただいた」と丁寧に表現することが多いかと思います。
「いただいた」は物をもらうこと以外にも、様々な動作を表す敬語だということはご存知ですか?
ここでは「いただいた」の意味や使い方、また「くださった」「頂いた」「戴いた」との違いについてもご紹介します。
日常的に使う言葉だからこそ、今一度正しい使い方を確認してみてくださいね。
「いただいた」の意味
「いただいた」は動詞「いただく」の連用形もしくは過去形です。敬語として使う場合には、「もらった」「食べた」「飲んだ」の謙譲語であり、敬語でない場合は「頭にのせる。かぶる」「苦労もなく、手に入れる」という意味になります。
敬語としての「いただいた」は目上の人から品物もらうこと、もしくは自分が飲食することを指します。こうした自分の動作をへりくだって表現することで、相手を立てて敬意を示すフレーズです。また、「もらう」が補助動詞「~してもらう」として使うことがあるように、「いただいた」も「~していただいた」と使うことができます。「~していただいた」は、「助けていただいた」「誘っていただいた」と、自分にとって恩恵のある行為を相手から受けるという意味合いを持ちます。
一方、敬語ではない「いただいた」の意味は、「頭にのせる」「苦労もなく手に入れる」があります。例えば、「頭に冠をいただいた」「この勝負はいただいた」と使います。
ちなみに、敬語の「いただく」について、近年では尊敬語として「温かいうちにいただいてください」のように使う人が増えつつあります。しかしながら、「いただいた」は自分の動作に対して使う謙譲語であり、相手の動作について使うのは誤用です。正しくは、「温かいうちに召し上がってください」としましょう。なお、「お召し上がりください」「お召し上がりになってください」は二重敬語のため本来なら不適切なフレーズですが、広く習慣として定着していているため使用は問題ないとされています。
「いただいた」の使い方(例文つき)
「いただいた」の表記には「いただいた」「頂いた」「戴いた」の3通りあります。
ひらがなで「いただいた」と表記する場合には全ての意味で使うことができますが、漢字で「頂いた」「戴いた」と使う際は、意味が限定されます。ここでは、表記による違いを例文と一緒にみていきましょう。
「いただいた」の場合
「いただいた」は、「もらった」「飲食した」の謙譲語、もしくは「頭にかぶる」「苦労もなく入手する」という意味で用います。また、「いただいた」をひらがなで書かなければならないのは、主に補助動詞として使う場合です。
内閣訓令「公用文における漢字使用について(平成22年11月)」では、公用文において補助動詞は基本的にひらがなで表記するというルールが記載されています。ビジネス文書でもこれにならい、「ご助力いただいた」「支援していただいた」とひらがなで表記します。補助動詞「いただいた」は、自分に恩恵がある他者の言動に対して使いましょう。
補助動詞「いただいた」を使った例文は、以下の通りです。
【例文】
- 落ち込んでいた時に、労いの言葉を掛けていただいた。
- いくつか会議日程がかぶっていたため、配慮していただいた。
- 開封後に商品の不具合が判明したが、快く変更に応じていただいた。
「頂いた」の場合
「頂いた」という漢字を当てる場合、意味は「もらった」「食べた」「飲んだ」の謙譲語です。
これは、「頂」を使った熟語に「頂戴する」があることを考えると、理解しやすくなります。具体的には「金一封をもらった」「名物料理を食べた」といった文脈で、謙譲語「頂いた」に置き換えが可能です。「頂いた」を使って「金一封を頂いた」「名物料理を頂いた」とすることで、相手に対する敬意を示すことができます。
「頂いた」を使った例文は、以下の通りです。
【例文】
- 頂いた資料は、次回までに目を通しておきます。
- その方でしたら、以前お会いした時に名刺を頂きました。
- 持参された手土産は、課のみんなで美味しく頂きました。
「戴いた」の場合
「戴いた」も、「頂いた」と同様に「もらった」「食べた」「飲んだ」の謙譲語です。しかしながら、「戴いた」は「頂いた」に比べて敬意の度合いが強い表現となります。
そもそも「戴」は、「戴冠」という熟語からもわかるように「頭の上に物をのせる」という意味があります。この「雪を戴いた山」「彼を社長に戴く」といった意味が転じて、一般的にかなり立場が上の方からの物品を「ありがたく受け取る」というニュアンスで使うようになりました。
「戴いた」を使った例文は、以下の通りです。
【例文】
- 外部から専門家を呼び、監督に戴いた。
- 功績が評価され、社長から表彰状を戴いた。
- お客様に大変気に入っていただき、お礼のお手紙とお品物を戴いた。
「いただいた」と「くださった」との違い
「いただいた」と「くださった」の違いは、行為の主体とニュアンスです。
まず、最も基本的な違いである行為の主体に注目してみます。
「いただいた」「くださった」はどちらも自分が物品を受領したことについて、恩恵を受けるという認識と敬意を込めて表現した語です。それぞれの語から敬語を取り除くと、このようになります。
- いただいた:「もらった」の謙譲語
- くださった:「くれた」「与えた」の尊敬語
つまり、自分を主語にして「私が(相手から)もらった」場合には謙譲表現の「私が(相手から)いただいた」を使います。一方、相手を主語にして「相手が(私に)くれた」場合には、尊敬表現の「相手が(私に)くださった」とします。
次に、ニュアンスに注目してみます。
「いただいた」は自分がもらったことに対する感謝の気持ちを強く表現しているのに対して、「くださった」は相手の与えたという行為に強い敬意を表しています。例えば「私が社長から感謝状をいただいた」なら感謝状をもらえたことに対する自分の感謝や喜びを、「社長が私に感謝状をくださった」なら感謝状をくれた社長への敬意を示す文となるのです。
このように、「いただいた」と「くださった」は聞き手に伝えたいニュアンスに応じて使い分けましょう。「受け取った自分」と「与えた相手」のどちらを主語にするかで、その人物への感情をより強く示すことができます。
「いただいた」の類語・言い換え表現
「いただいた」の類語には、以下のようなものがあります。
【類語】
- 頂戴した(ちょうだいした):「もらう」「飲食する」の謙譲語「頂戴する」の過去形。
- 賜った(たまわった):「もらう」の謙譲語。また、「与える」の尊敬語。
さいごに
ここまで「いただいた」についてご説明してきましたが、いかがでしたか。
「いただいた」は「いただく」の過去形もしくは連用形です。意味は「もらった」「飲食した」の謙譲語、もしくは「頭にのせる」「苦労もなく手に入れる」となります。
平仮名で「いただいた」と書くときは主に補助動詞として「~していただいた」と使います。漢字表記「頂いた」「戴いた」はどちらも「もらった」「飲食した」の謙譲語ですが、「戴いた」の方が敬語としての度合いが高く、「ありがたく頂戴する」というニュアンスを含みます。
ビジネスシーンでは物を受け取る機会が多くあります。そんな時、「頂いた」「戴いた」「くださった」の違いをマスターしていれば、状況や相手との関係性に応じて適切に使い分けることができます。
「いただいた」を正しく理解するために、この記事が参考になれば幸いです。