みなさんは「布石を打つ」と「伏線を張る」を正確に使い分けることができますか?
日本語には似たようなフレーズがたくさんあり、私たち日本人でさえ使い分けに戸惑うこともありますよね。「布石」と「伏線」もその一例です。
囲碁ファンなら「布石」、小説愛好家なら「伏線」を好んで使うかもしれませんが、実は「布石」と「伏線」には、意味の違いがあるのはもちろんのこと、どのような場面で使うべきかについても正しい知識が必要です。
今回は、曖昧になりがちな「布石」と「伏線」の意味や使い分けについて詳しくお伝えします。「布石を打つ」「伏線を張る」の表現についても例文をあげて紹介します。
「布石」の意味・使い方
「布石(ふせき)」とは、「将来に備えてあらかじめ手を打つこと」という意味です。
布石は、元々は「石を布く(しく)」という囲碁用語から広く一般的になった言葉です。「布く」には「配置する」という意味があり、囲碁の碁石を碁盤上に配置していくことから「布石」という言葉が生まれました。「布石を打つ」という典型的な表現も、碁石を碁盤に打つ姿に由来しています。
布石は、囲碁においては勝利するために欠かせない戦術です。つまり「布石」という言葉の背景には、「自分が将来望む結果を得るために欠かせない準備をする」という戦略的・競争的な意味合いが含まれているのです。
このような意味合いを考えると、布石がビジネスやスポーツで使うことが多いというのも納得できますよね。
【例文】
- 競合他社との商戦に勝つためには、早めに布石を打っておくべきだ。
- 今回のアラブ諸国との貿易協定は、日本の資源確保のためにも必要な布石だ。
- 東京オリンピックで獲得メダル数を増やすには、早めに選手強化の布石を打つ必要がある。
- 今回の模試で良い成績を上げることは、必ずや目標校合格の布石となるだろう。
- 次回の選挙に向けて、今のうちから布石を打っておこう。
「伏線」の意味・使い方
「伏線(ふくせん)」とは、「後に起きることのために、前もってひそかに設けておくこと」という意味です。
伏線という言葉をよく見かけるのが、ドラマ・映画・小説・演劇などの場面です。いずれも作品全体を貫くストーリーが存在する点で共通していますよね。「伏」という文字には「ふせる、かくす」という意味があるとおり、ストーリーの後半で起きる事柄について、前半でひそかにほのめかしておくことが「伏線」です。
「伏線を張る」という典型的な表現も、「見えない線をひっそりと張る」というニュアンスに由来しています。
だからこそ、伏線を的確に使うためには、ある程度長い時間の流れが欠かせません。伏線が連続ドラマや映画などで多用されるのには、れっきとした理由があるわけですね。
【例文】
- この小説は、巧みな伏線がたくさん張られているので、読んでいてとても面白い。
- いま思い返せば、主役の弟の不自然な言動が事件の伏線になっていたんだな。
- こちらの申し出が断られたときに備えて、伏線を敷いておこう。
- 最後の最後で、ようやく伏線が回収された。
- 伏線を発見することは、小説を読む楽しさの一つだ。
「布石」と「伏線」の違い
「布石」と「伏線」は、あらかじめ何かを行う点では似ています。しかし、布石は「将来に備えての準備」であるのに対して、伏線は「あとで起こる出来事についての予告」であるという決定的な違いがあります。
「布石を打つ」は、計画どおりに物事を進めるために、段取りを整えておくことを意味するため、事業やプランを前提に使う言葉です。
他方で、「伏線を張る」は、あとで起こる出来事について、はっきりと知らせるのではなく、ほのめかしたり、さり気なく予告したりするときに使います。
上述したようにドラマや小説など、ストーリーのあるものについて使うことが多い言葉なのです。
また、「あらかじめ結論がわかっているかどうか」も、布石と伏線の違いといえます。「布石」の場合、狙いどおりに目標が実現するとはかぎりません。ゴールに到達するための手段を講じたときに使ったりします。
一方で「伏線」は、すでに結論や結末が決まっており、そのヒントとして適所に配置するものです。そのため、ドラマの脚本家や小説家・漫画家が、結末に導くための「伏線を張る」ときに使われます。
まとめ
「布石」も「伏線」も、あらかじめ行う行動である点でよく似ていますよね。そのためか、「布石を張る」「伏線を打つ」というように間違って使われる例も散見されます。
布石も伏線も、普段の会話で気楽に使われる言葉ではありません。そのため、両者の意味や使い方について、日本人であっても勘違いしている方が多いように思います。
「将来に備えての準備かどうか」「結論があらかじめわかっているか否か」の2点に注意すれば、「布石」と「伏線」を正しく使い分けることができるので、参考にしてみてください。