「弁済」と「返済」の違いはご存知ですか?
「返済」は「借金返済」や「ローン返済」といった使い方で、日常生活のなかでも耳にする言葉ですね。
一方で「弁済」は、「返済」と比べて馴染みの薄い言葉ではないでしょうか。ビジネスシーンでは「弁済の提供」「代位弁済」といった専門用語で使われます。
「返済」と「弁済」は、使い方に細かな違いがあるため、意味を正確に押さえておく必要があります。
ここでは「弁済」と「返済」の違いについてお伝えします。意味や使い方についても解説するのはもちろん、「支払い」や「弁償」との使い分け方も徹底解説するので参考にしてくださいね。
弁済の意味・使い方
「弁済」の読み方は「べんさい」です。
「弁済」の意味は下記の2つです。
- 1:借りたものを相手に返すこと
- 2:債務者または第三者が債務の内容である給付を実現して債権を消滅させること
1の意味はそのままですね。
2は債務者、給付、債権といった普段使わない、難しい言葉が並んでいますが、法律用語として使われるときの意味です。
簡単に言えば「借りていたお金を全額返したり、商品を引き渡す約束を実行したりして、借りをなくすこと」です。
なお、「弁済」は、相手からお金を借りていたとしても、必ずしもお金で返す必要はありません。不動産などの資産や金品を弁済に使ったりすることもあります。
また、「弁済」は借金の全額を完済して債権がなくなったときのみに使う言葉です。そのため、一部のみを返したときに「借金300万円のうち、100万円を弁済した」という使い方はしません。
【例文】
- 負債を弁済する。
- 弁済の提供を行う。
- 債務の弁済は第三者もすることができる。これを第三者弁済という。
- 借金100万円を弁済した。
「返済」の意味・使い方
「返済」の意味は「借りた金や物を相手に返すこと」です。
厳密には「債務者が債務本来の趣旨に基づき、債権者に物の引渡、金銭または物を給付し、債権を消滅させること」という意味ですが、うえの通り「借りた金や物を相手に返すこと」と覚えておくとよいでしょう。
「返済」は「ローン返済」や「繰り上げ返済」といった使い方をするように、借りたお金のうち、一部だけ返すときにも使われます。
なお、お金を返すときに限らず、借りた物を返すときにも使われます。
「返済」は「弁済」とは違い、法律用語ではありません。
【例文】
- 返済義務のない奨学金を利用する。
- 返済期限は一年となっている。
- 借金返済が滞る。
「弁済」と「返済」の違い
「弁済」と「返済」の違いは、「弁済」は「日常用語」と「法律用語」の両面で使われる言葉であるのに対して、「返済」は日常用語のみで使われる言葉だという点です。
「弁済」も「返済」も、日常用語としての意味は「借りていたものを返す」であり、ほとんど違いはありません。
ですが、法律用語の「弁済」の意味は「債務を履行して債権を消滅させる」ことをいい、日常で使われる「返済」とは意味が異なります。
分かりやすくするために、例をあげてご説明しますね。
たとえば、AさんがB社から車を購入する契約を結んだとします。
この契約により、AさんはB社に車の購入代金100万円を支払う義務を負い、B社はAさんに車を引き渡す義務を負ったとしましょう。
そこでAさんは約束の期日までにB社に100万円を支払い、B社もAさんに車を引き渡し、互いに契約を履行したとします。
この一連の取引のなかで重要なのは、Aさんが代金を支払った行為も、B社が車を引き渡した行為のいずれも「弁済」という行為にあたるということです。
車を購入するAさんは「100万円を支払う」という債務を負い、それを期日までに支払ったため、「弁済した」といえます。また、B社は「車を引き渡す」という債務を負い、Aさんに納品したことからこちらも「弁済した」といえるのです。
「返済」の意味である「借りていたものを返す」とは意味が異なることが理解できたでしょうか。
また、「返済」はただ単に返すことですが、「弁済」はお金を借りたとしても、必ずしもお金で返さなければいけないわけではありません。
「代物弁済(だいぶつべんさい)」と言い、話し合いにより合意さえすれば、お金ではなく物品を受け渡すことにより弁済が完了するのです。
弁済・支払・弁償・賠償の使い分け方は?
「支払」の意味は、一般的には「品物やサービスなどに対してお金を払うこと」ですが、法律用語だと「金銭債務の履行として金銭を渡すこと」という意味になります。
前節でご説明したAさんとB社の取引に関して言えば、車を納品されたAさんが、B社に購入代金の支払いを行うことを指します。
つまり、AさんがB社に金銭を支払うことは「支払」ともいいますし、「弁済」ともいうのです。
また、「弁償」は「人に与えた損害を金銭または物品によって埋め合わせすること」という意味です。法律用語ではないことから、「他の人に与えた損害をつぐなうこと」という意味の「賠償」が一般的に使われます。
「賠償」と「弁済」の違いを簡単に言えば、「賠償」は「損害賠償に関する債務を消滅させる行為」であり、「弁済」は「民法上の債務を消滅させる行為」といえるでしょう。
さいごに
ここでは「弁済」と「返済」の意味と使い方をご説明しましたが、いかがでしょうか。また「支払」「弁償」「賠償」との違いについてもお伝えしましたが、理解できましたか?
日頃使わない難しい言葉が並ぶため、イメージを掴みにくいと思いますが、例文を参考に、この機会に覚えておくとよいでしょう。