ビジネス上のやりとりでは、相手を立てるための敬語は必須ですよね。
日本語には様々な敬語がありますが、ポピュラーな言葉である「言う」の敬語「申す」「おっしゃる」の正しい使い方はご存知でしょうか。
ここでは「申す」と「おっしゃる」の意味と使い方、そしてそれぞれの違いについてご説明します。
類語もご紹介していますので、是非参考にしてくださいね。
「申す」の意味・使い方(例文つき)
「申す(もうす)」は「言う」の謙譲語です。
ビジネスシーンにおいて「申す」は主に、自分が「言う」することに対して用います。謙譲語を使ってへりくだる姿勢を示すことで、聞き手を立てることができるのです。「申す」の多くは、丁寧の助動詞「ます」を付けて「申します」の形で使います。具体的には、自分もしくは身内の発言に対して「弊社の〇〇が申しております」「そうは申しましても」といったように使います。
他にも、「申す」は補助動詞として用いることがあります。動作を表す名詞に付くことで、「お送り申します」「お頼み申します」と謙譲の意を表すことができます。
ちなみに、電話に話し始める際の呼びかけ「もしもし」の由来は「申し申し」です。かつて、電話の相手同士をつなぐための電話交換手は、失礼のないように「申し上げます」と言っていました。それが音変化して「もうし」になり、電話の音が聞き取りづらいときに「もうしもうし」と重ねたことが定着し、省略されたことで現在の「もしもし」になりました。
「言う」の謙譲語には「申す」の他に、「申し上げる」もあります。この二つは厳密には謙譲語の種類が異なり、立てる相手が異なります。「申す」が「言う」ことを伝える先の聞き手を立てる謙譲語(謙譲語Ⅱ, 丁重語)なのに対し、「申し上げる」は「言う」という行為の向かう先を立てる謙譲語(謙譲語Ⅰ)です。
つまり、「自分がAに話したという事実を、Bに伝える」ことを想定した場合、
- 行為が向かう先Aを立てるのが謙譲語Ⅰ:「申し上げる」
- 聞き手Bを立てるのが謙譲語Ⅱ:「申す」
となります。このように、「言う」の謙譲語は、誰を立てるべきなのかという点に留意して使い分ける必要があります。なお、文脈によっては行為の向かう先と聞き手が同一の場合があります。この場合には、事実上謙譲語ⅠとⅡを同じように使うことが可能です。
行為の向かう先を立てる場合:謙譲語Ⅰ
- 計画の詳細については、佐藤が上層部へ申し上げた通りだ。
聞き手を立てる場合:謙譲語Ⅱ(丁重語)
- 佐藤が計画の詳細をお伝えしたいと申しております。
聞き手と行為の向かう先が同一の場合
- これから皆様へ、計画の詳細を申し上げます。
- これから皆様へ、計画の詳細を申します。
「申す」を使った例文は、以下の通りです。
【例文】
- お電話ありがとうございます。A会社お客様センター担当の鈴木と申します。
- 先日も申しました通り、懇親会の日取りが決まりました。詳細はお送りしたメールをご確認ください。
- 来週、弊社エンジニアの鈴木と申す者が点検に伺います。もし他にお困りのことがございましたら、その際にご相談ください。
- そうは申しましても、我々としてはこれ以上のお値下げは難しいのが現状です。
「おっしゃる」の意味・使い方(例文つき)
「おっしゃる」は「言う」の尊敬語です。
「おっしゃる」は尊敬語なので、目上の人や取引先の「言う」という行為を指して使います。主に「おっしゃいます」「おっしゃっていました」「おっしゃってください」「おっしゃるとおり」の形で使われます。
漢字では「仰る」と表記しますが、これは常用漢字表に読み方がない表外読み(表外音訓)です。ビジネスシーンでは特別な事情がない限りひらがなで書く方が良いでしょう。他にも、「おっしゃる」の意味には「そういう名前でいらっしゃる」もあります。
よく見かける丁寧な言い回しに「おっしゃられる」がありますが、これは誤った敬語です。「言う」に対して尊敬語が「おっしゃる」「られる」と複数個使われています。したがって、「おっしゃられる」というフレーズは二重敬語と言えます。
「言う」の尊敬語には「おっしゃる」もしくは「言われる」を使いましょう。なお、「おっしゃることができる」という意味で「おっしゃる」に可能の助動詞「れる」を付ける場合には、「おっしゃれる」が正しい表現です。
「おっしゃる」に丁寧の助動詞「ます」を付けた言葉に「おっしゃります」があります。これは間違ではないものの、現代ではあまり使わない表現です。「おっしゃる」に丁寧の助動詞「ます」が付く場合、「おっしゃる」は連用形「おっしゃり」になります。
つまり、本来「おっしゃります」だったものが、時代を経て「おっしゃいます」に音変化したのです。現代でも「おっしゃりつつも」「そうはおっしゃりながら」「おっしゃり、」といったように、接続助詞や読点につながる場合には「おっしゃり」を見かけます。ですが、「ます」を付ける場合には、広く一般的に使われている「おっしゃいます」とするのが無難です。
なお、目上の人や取引先の発言を指して「申される」と表現することがありますが、これは誤りです。「申される」は謙譲語「申す」に尊敬の助動詞「れる」が付いてできたフレーズです。「申す」が古典や時代小説において丁寧語として用いられていたことに由来する言い回しですが、現代では「申す」は謙譲語として使います。したがって、目上の人や取引先の「言う」という行為を「申す」や「申される」と表現するのは誤用となります。
「おっしゃる」を使った例文は、以下の通りです。
【例文】
- 先方がおっしゃるには、この件については前もってこちらへ連絡したはずだそうです。
- 他にも必要なものがございましたら、何なりとおっしゃってください。
- 鈴木さんとおっしゃる方がお見えです。
- 今回の商談において、くれぐれも社外秘に指定されている事柄についてはおっしゃいませんようお願いいたします。
- おっしゃるとおり、この仕様にはいくつかの問題があります。
- 周囲に流されることなく自分の意見をおっしゃれる方こそ、リーダーに相応しいと思います。
「申す」と「おっしゃる」の違い
「申す」と「おっしゃる」は、どちらも相手への敬いの気持ちを込めた「言う」の敬語です。しかし、これらは行為者が異なります。
「申す」は謙譲語であり、「弊社の〇〇が~と申しております」というように自分もしくは自分側の人間の発言をへりくだっていう表現です。対して、「おっしゃる」は尊敬語のため、「A社の〇〇様が~とおっしゃっていました」と相手の動作に対して使用します。目上の人や取引先の人が主語となり「言う」場合には、「おっしゃる」を使いましょう。
「申す」の類語
「申す」の類語には以下のようなものがあります。
【類語】
- 言上する(ごんじょう):目上の人に申し上げること。申し述べること。
- 陳ずる(ちんずる):申し述べる。言葉で述べる。
「言上する」「陳ずる」は、謙譲語Ⅰである「申し上げる」の同義語です。「申し上げる」に比べて敬意の度合いが強い語となります。
「おっしゃる」の類語
「おっしゃる」の類語には、以下のようなものがあります。
【類語】
- 仰せられる(おおせられる):「言う」「命じる」の尊敬語。
「仰せられる」は動詞「仰す(おおす)」に尊敬の助動詞「られる」の付いてできた語です。本来なら二重敬語であり敬語としては誤りですが、現在では一語化した連語として辞書にも掲載されている言葉なので使用は差し支えありません。しかし、「命令する」というニュアンスを含むため、実際のビジネスシーンではあまり使うことはありません。
さいごに
ここまで「申す」「おっしゃる」についてご説明してきましたが、いかがでしたか。
「申す」「おっしゃる」はどちらも「言う」の敬語です。自分が言う場合には謙譲語「申す」を、相手が言う場合には尊敬語「おっしゃる」を使います。誤った敬語「おっしゃられる」「申される」や一般的ではない「おっしゃります」は使わないようにしましょう。
ビジネスシーンで誤った敬語を用いると、相手を不快にさせるだけでなく、自分や会社の信用を落とすことにもつながりかねません。
敬語「申す」「おっしゃる」を正しく使い分けるために、この記事が読者の皆様のお力になれれば幸いです。