ビジネス文書やビジネスメールで、相手の行動を促すときに以下のような言い回しを使うことがあります。
「これに懲りずにまたお誘いください」「これに懲りずに今後とも宜しくお願い致します」
また、「これに懲りずまた頑張ろう」といったように自分達に対して使うこともあります。でも「これに懲りず」とはどのような意味を持つ言葉なのでしょうか?
この言葉に失礼な印象を持つ人も少なくありませんが、実は「これに懲りず」には不適切とされる相手やシーンがあることはご存知でしたか。
ここでは「これに懲りず」の意味や正しい使い方についてお伝えします。例文も紹介するので、この機会に正しい使い方を覚えてくださいね。
「これに懲りず」の意味
「懲りる」の意味は「失敗してひどい目にあい、もうやるまいと思う」です。そして、「これに懲りず」の「これ」は「失敗やひどい目にあった経験」を指しています。
つまり、「これに懲りず」とは「今回は失敗や嫌な経験をしたけれど、これにめげることなく」という意味となります。
失敗に落ち込まずもう一度同じことに挑戦しよう、と促すための励ましフレーズなのです。
「これに懲りず」の使い方
「これに懲りず」のフレーズは、上司や取引先といった目上の人に対して使うのは避けた方が賢明です。その理由は、「懲りる」という言葉は、失敗や嫌な経験など、本人にとってあまりよくない出来事が起こったことを前提として使われる言葉だからです。
本来、敬意を払うべき目上の人に対して、「失敗した」「嫌な経験をした」と暗に指摘することは、相手に恥をかかせることになるため失礼となります。したがって、「これに懲りず」は目上の人ではなく、同僚や目下の人に対して使いましょう。
また、自分に対して「これに懲りず」を使うことで、謙虚で前向きかつ不屈の姿勢を示すことができます。
「これに懲りず」は以下の例文のように使います。
【例文】
- これに懲りずに、また次の機会に挑戦しようよ。
- 本日は初回ということで思い通りにいかなかった方も多いとは思いますが、これに懲りずまた次回もお越しください。
- 今回は努力の甲斐なく落選しましたが、これに懲りずに精進します。
- この度は不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。これに懲りずに、またお越しくださいませ。
「これに懲りず」はビジネスではNG?
「これに懲りず」はビジネスシーンに不向きな言い回しです。その理由はふたつあります。
ビジネスシーンに不適切とされる一つ目の理由は、敬語表現ではないからです。
「これに懲りず」を敬語にすると、「これにお懲りならず」「これに懲りられず」と耳慣れない不自然な表現になってしまいます。「これに懲りず」はネガティブな意味も相まって尊敬語とは馴染まないため、ビジネスシーンでは不適切なのです。
二つ目の理由は、「懲りる」という言葉が失敗や嫌な経験が起こったことを前提としている言葉だからです。
前章でも述べたように、敬意を払うべき目上の人に対して、失敗したと指摘することは失礼にあたります。「懲りる」は自分や友人、目下に使うのが適した言葉なので、ビジネスシーンでは不適切となります。
他にも、「本日はあいにく満室でしたが、これに懲りずにまた是非お越しください」といったように、お詫びする際に「これに懲りず」を使っている文章がしばしば見受けられますが、これも不適切な表現です。
なぜなら、相手は「懲りる」ような失敗を犯していないからです。それにも関わらず相手を主語として「懲りる」という表現を使ってしまうと、相手が失敗したことになり、失敗をなすりつけていると受け取られかねません。そのため、自分に非がある謝罪の際は、「これに懲りず」というフレーズは失礼となります。
どうしても謝罪の場面で「これに懲りず」を使いたい場合には、しっかりお詫びをした上で、「誠に勝手ながら、これに懲りず」と前置きを入れると良いでしょう。また、誘いを断る場面では、申し訳なく思っていることや断る理由を丁寧に伝えた上でなら、「これに懲りず」を使うことで次回また誘って欲しいという気持ちを表現することができます。
どちらにせよ、「これに懲りず」をどうしても使いたい場合は、ビジネスに不向きということを念頭に置いて、普段以上に相手を敬う言葉遣いと言い回しを心がけましょう。
「これに懲りず」の別の言い方
前述したとおり、「これに懲りず」は、基本的にビジネスシーンにふさわしくない表現です。
そのため、ずばり的確な言い換え表現はありませんが、似たニュアンスで「これに懲りず」を使わない別の言い方、例文を使ってご紹介します。
【例文1】
- この度は納品の遅れによってご迷惑をおかけしました。これに懲りずに今後ともよろしくお願いいたします。
- この度は納品の遅れによってご迷惑をおかけしました。二度とこのようなことがないよう努めてまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
【例文2】
- 本日の食事会は私用で参加できませんが、これに懲りずにまた誘ってください。
- 本日の食事会は残念ながら、私用で参加できません。次の機会には是非参加したいので、また誘ってください。
さいごに
ここでは「これに懲りず」の意味や正しい使い方をお伝えしましたが、いかがでしょうか。
「これに懲りず」は「今回は失敗や嫌な経験をしたけれど、これにめげることなく」という意味をもつ言葉です。
目上の人に「これに懲りず」と暗に失敗を指摘しまうことは、恥をかかせてしまい大変失礼です。どうしても「これに懲りず」を使いたい場合は、ビジネスに不向きということを念頭に置いた上で、普段以上に言葉遣いと言い回しに気を付けましょう。