突然ですが、「悲しい」と「哀しい」の違いをご存知ですか?
読み方はどちらも「かなしい」ですね。
日本語は読み方が同じでも、漢字が変われば意味も変わる言葉がたくさんあります。
漢字表記の良いところは、ひらがな表記と違って一目で意味が把握できること。しかし、漢字を書く際には、同音異義語のように同じ読みでも異なる漢字を充てる言葉があるので注意が必要です。
さらに、同じ読み・同じ意味を持つにも関わらず、異なる漢字で書き表す言葉もあります。今回はそんな言葉のひとつ、「悲しい」と「哀しい」の違いについてご説明します。意味や使い方だけでなく、類語についてもご紹介します。どの場面でどちらの漢字を使うのがふさわしいか、この機会に覚えてくださいね。
「悲しい」と「哀しい」の違い・使い分け方
「悲しい」と「哀しい」にはどのような違いがあるのでしょうか。
結論からお伝えすると、公用文などで漢字の正当性が求められる場合や、使い分けに困ったときは常用漢字である「悲しい」を使うのが基本です。
「哀しい」は常用漢字ではないため、使えません。
また、私的な手紙やメールにおいて、感情の微妙な違いを伝えたいときは下記の使い分けをします。
- 悲しい:つらくて泣きたくなるような気持ちを表現するとき
- 哀しい:他人やその他の物事があわれで可哀想だと思うとき
より理解を深めるため、次節で「悲しい」と「哀しい」のそれぞれの意味や使い方をお伝えします。
「悲しい」の意味・使い方
「悲しい」の辞書での意味は「心が痛んで泣けてくるような気持ち。嘆いても嘆ききれぬ気持ち」です。
簡単に言えば、「つらくて泣きたくなるような気持ち」ですね。
意味は「悲」の漢字の語源からも読み取ることができます。
「悲」の上部の「非」は、羽が左右に開いた形から「割れる」ことを意味しています。そして、その下に「心」があることから、「悲」の漢字は、心が張り裂けそうなくらいかなしく切ない気持ちを表しています。
なお、「悲しい」は常用漢字表に登録されている言葉なので、公用文や法令、新聞、雑誌、ニュースなどで「かなしい」を書くときは「悲しい」と表記します。
【例文】
- 大好きなソフトクリームを落としてしまって悲しい。
- 友達は、飼い犬が逃げてしまって悲しみに暮れている。
- 突然の訃報に、悲しむ声が続々と届く。
豆知識:常用漢字表とは、内閣告示「常用漢字表」において示された現代日本の漢字のこと。常用漢字表には、一般の社会生活で使われる目安となる漢字が定められています。
一般に使用する漢字を「常用漢字表」として示すことで、言葉の意味をスムーズに読み取り、コミュニケーションに支障がないようにしています。日常で一般的に使う「かなしい」を「悲しい」という漢字表記に統一することで、より多くの人に意味が伝わるようにしているのですね。
「哀しい」の意味・使い方
「哀しい」の辞書での意味は「悲しい」と同じく「心が痛んで泣けてくるような気持ち。嘆いても嘆ききれぬ気持ち」です。
では「哀しい」はどのような場面で使うのでしょうか。
「哀」は「衣+口」の会意兼形声文字で成り立ちます。「死者が身につける衣服の襟元(えりもと)」を意味する「衣」と、「口」の象形から、同情の声を寄せ合うことを意味します。
「哀」を使った語には「哀れ」や「可哀想」「哀愁」「哀悼」などがありますが、「哀」は「切なくて胸がつまる」や「あわれ。かわいそうに思う」ことを表すときに使われます。
そのため「哀しい」は、他人やその他の物事があわれで可哀想だと思うときに使われ、主に文学における詩的な表現や、主観的な心情を表現する際に用いられます。
「哀」という字の持つ「切ない」「あわれ」「いたたまれなさ」といったニュアンスが、かなしみを一層豊かに表現してくれますね。
なお、常用漢字に登録されている「哀」の漢字の読み方は「アイ、あわ-れ、あわ-れむ」です。「かな-しい」とは読みません。そのため、公用文や新聞では「哀しい」は使いません。
【例文】
- 秋の訪れを感じてなんとなく哀しくなる。
- 失ったものの大きさに気づいて哀しみが増す。
- 哀しさを浮かべた表情。
【番外編】「愛しい」の意味・使い方
鎌倉中期の古今著聞集や奈良時代の万葉集など、古くは「かなしい」に「愛しい」という字を充てることがありました。
ご説明した「悲しい」や「哀しい」の意味とは異なり、「愛しい」には「心に染みていとしい。かわいくてならない」「心に染みておもしろい。強く心を引かれる」「すばらしい。みごとである」といった意味を持ち、激しく心が揺れ動く様子を表すときに広く使われていました。
分かりやすく言うと、「愛しい(いとしい)」と同じ意味ですね。
しかし、現代において「かなしい」は、主に「心が痛む」というネガティブな意味で使われています。
「悲しい」と「寂しい」の違いは?
「悲しい」は「つらくて泣きたくなるような気持ち」を表す語でした。
「寂しい」を辞書で調べると「心が満たされず、物足りない気持ちである」「仲間や相手になる人がいなくて心細い」「人の気配がなくて、ひっそりとしている」という意味が出てきます。
どちらもネガティブな意味合いが含まれている言葉ですね。では、「悲しい」と「寂しい」は、どのように使い分けるのでしょうか。
結論をいうと、「悲しい」は心が痛んで辛い気持ちを表すとき、「寂しい」は孤独感や心細い気持ちを表現するときに使います。
仲間や相手になる人がいなくて心細いことを「一人寂しく暮らす」とはいっても、「一人悲しく暮らす」とは言いませんよね。
また、人の気配がなくてひっそりとしている道のことを「寂しい夜道」とは言っても「悲しい夜道」とはいいません。
反対に、辛い気持ちを起こさせるお知らせのことを「悲しい知らせ」といいますが、「寂しい知らせ」とは言いませんよね。
なお、「悲しい」の反対語は「嬉しい」、「寂しい」の反対語は「賑やか」です。反対語を見ると違いが歴然ですね。
「悲しい」の類語・言い換え表現
つづいては「悲しい」の類語をお伝えします。
- 不幸せ (ふしあわせ):幸福でないこと。また、そのさま。不幸。
- 薄幸(はっこう):幸せに恵まれないこと。
- 憂い(うい):思うようにならないで、つらい。気が進まない。
- 物悲しい(ものがなしい):なんとなく悲しい。
- 沈痛(ちんつう):深い悲しみや心配ごとに心を痛めること。
「かなしい」という感情をよく観察すると、単純な悲しみだけの他にも、様々な感情が入り混じっていることがあります。様々なバリエーションを覚えておくことで、辛さを表す感情を、適切に表現できるようになるでしょう。
さいごに
ここでは「悲しい」と「哀しい」の違いについてお伝えしました。それぞれの意味や使い方についてもお伝えしましたが、理解できましたか?
よく似た意味の言葉でも、使う言葉によって相手に伝わる印象も大きく変わります。
この機会に「悲しい」と「哀しい」の違い・使い分け方を覚えて、豊かに感情を表現できるようになるといいですね。