突然ですが、「寂しい」と「淋しい」の違いをご存知ですか?
どちらの漢字も「さびしい」「さみしい」の2つの読み方があります。
使う場面もよく似ているので混同して使ってしまいがちですが、「寂しい」と「淋しい」には細かな違いがあります。
ここでは「寂しい」と「淋しい」の違いについてご説明します。それぞれの意味や使い方・類語はもちろん、「さびしい」「さみしい」の違い、「切ない」との使い分け方についてもお伝えするので参考にしてくださいね。
目次
「寂しい」と「淋しい」の使い分け方
「寂しい」と「淋しい」にはどのような違いがあるのでしょうか。結論からお伝えすると、「寂しい」と「淋しい」の違いは下記のとおりです。
「寂しい」は下記の状況を表現するときに使われます。
- さびしい様子を客観的に表すとき
- 景色が荒れている様子
- 物静かな様子、心細い様子
一方で「淋しい」は、
- 主観的なさびしさ
- 涙を流すくらい悲しい気持ち
を表現するときに使われます。これを踏まえた上で「寂しい」と「淋しい」の意味や使い方を詳しく見ていきましょう。
「寂しい」の意味・使い方
「寂しい」を辞書で調べると下記の3つの意味が出てきます。
- 心が満たされず、物足りない気持ちである。さみしい。
- 仲間や相手になる人がいなくて心細い。
- 人の気配がなくて、ひっそりとしている。さみしい。
「寂しい」の「寂」の漢字には「古びて味わいのあること」や「閑寂枯淡:ひっそりとさびしく、あっさりしている中に深い味わいがあること」という意味があります。
「静寂(せいじゃく)」「閑寂(かんじゃく)」という熟語や「侘び寂び(わびさび)」といった使い方をするように、さびしい状況や様子を表すときに使います。
つまり「寂しい」は、客観的に静かな状態があり、結果として心がさびしい状態になるときに使われる語です。
【例文】
- 帰宅したものの皆留守のため、誰もいなくて寂しい。
- 閉店後の店内は、がらんとしていて寂しい。
- 公園で一人、寂しそうに景色を眺める人がいる。
「淋しい」の意味・使い方
「淋しい」の辞書的な意味は「寂しい」と同じく下記の3つです。
- 心が満たされず、物足りない気持ちである。さみしい。
- 仲間や相手になる人がいなくて心細い。
- 人の気配がなくて、ひっそりとしている。さみしい。
「淋しい」の「淋」の漢字は、「林」に「さんずい」が合わさってできた言葉です。
「林」には「絶え間なく続く」という意味、「さんずい」は「水」を指す語であることから、「淋」とは「水が絶え間なく滴り落ちるさま」を意味する言葉なのです。
そのため「淋しい」は、「水が滴る様子」から派生して、主観的なものさびしい気持ちを表したり、涙を流すことを連想させるような、悲しい気持ちを表現したりするときに使われます。
【例文】
- 彼女に振られて淋しい。
- 事故で妻を亡くしてしまい淋しい。
- 仲間外れにされてしまい、淋しく悲しい気持ちになる。
「寂しい」と「淋しい」の使い分け方
さて、前章では「寂しい」と「淋しい」の違いについてお伝えしました。
もう一度整理しておくと、「寂しい」は「客観的に静かな状態があり、結果として心がさびしい状態になるとき」、「淋しい」は「涙を流すことを連想させるような、悲しい気持ちを表現するとき」に使われます。
ですが、どのような状況でも上記の意味合いに当てはめて使用していいかというと、そうではありません。
そもそも「寂しい」は常用漢字ですが、「淋しい」は表外漢字のため、公用文書や法令、新聞、雑誌、ニュース、教科書などで「さびしい」と表記するときは「寂しい」の漢字を使うのが基本です。
※常用漢字とは、一般の社会生活で漢字を使用する際の目安として内閣告示された漢字のこと。表外漢字とは常用漢字表に掲げられていない漢字のこと。
そのため、ビジネス文書や改まった手紙で「さびしい」と書くときは「寂しい」の漢字を使うのが一般的です。
ですが、日常生活のなかで「さびしい」と書くときは、そのときの状況や表現したい気持ちに合わせて「寂しい」と「淋しい」を使い分けるとよいでしょう。
「常用漢字」はあくまでも目安です。表外漢字だからといって、如何なる場面でも使えないかといえば、そうではありません。
友人とのメールや手紙のやりとりでは「寂しい」「淋しい」を使い分けましょう。
読み方は「さびしい」「さみしい」のどっちが正しい?
冒頭でもお伝えしたとおり、「寂しい」と「淋しい」は、どちらも「さびしい」「さみしい」と読みます。
両者の読み方はどのように使い分けたらよいのでしょうか。
結論から言うと、現代では「さびしい」と「さみしい」はどちらを使っても構いませんが、正式な読み方は「さびしい」とされています。
というのも、常用漢字表に掲げられている漢字は「寂しい」ですが、その「寂しい」の常用漢字の読み方には「さびしい」しか表記されていないからです。
「さみしい」の読み方は認められていないので、書くときはひらがなにしましょう。
ちなみに「さびしい」の語源は、鎌倉時代までの文献にある「さぶし」「さびし」という言葉からきています。動詞の「寂(さ)びる」という言葉が形容詞化したものですね。
一方で「さみしい」という読み方は、江戸時代になって現れた言葉です。「さびしい」の言葉が長年使われるなかで、発音が徐々に変化したものと言われています。
「目をつむる」が「目をつぶる」に変化したのと同じような流れですね。
なお、そのうえで「さびしい」と「さみしい」の読み方を使い分ける場合は、その状況が「感情的・情緒的な意味」なのか、「客観的な意味」で使うのかで判断します。
そもそも「さびしい」には大きく分けると下記の2つの意味があります。
- 心が満たされず、物足りない気持ちである=情緒的
例:さびしい日々、さびしい気持ち - 人の気配がなくて、ひっそりとしている=客観的
例:さびしい公園、さびしい村
「さびしい」はこの両方の場合に使えるのに対して、「さみしい」は情緒的な場面では使えても、客観的な場面ではやや使いにくいといえます。
そのため、友人とのメールや会話のやりとりのなかで使うときは、情緒的な様子を表すときは「さみしい」、ひっそりとした様子を表現するときは「さびしい」と使い分けましょう。
「寂しい」と「切ない」の違いは?
「寂しい」と似た表現に「切ない」があります。両者にはどのような違いがあるのでしょう。
「切ない」の意味を辞書で調べると「悲しさや恋しさで、胸が締めつけられるようである。やりきれない。やるせない」「からだが苦しい」が出てきます。
「寂しい」との大きな違いは、「切ない」には「恋しい」「苦しい」といった意味が含まれる点です。
このことから「切ない」は、好きな人やある物事に対して、したいけれどもできない事情や心情により心が苦しいさまを表していることが分かります。
また「切ない」は「恋愛に関する感情や、それによる辛苦を伴う気持ちを表す」という意味の言葉です。
そのため「寂しい」「切ない」は、どちらも「悲しい」という意味を含む語ではありますが、「切ない」はその気持ちがより込められている表現といえます。
ただ心が満たされず物足りないのではなく、それによって悲しくて苦しい、という気持ちを表現したいときには「切ない」という言葉が適切です。
【例文】
- あの人のことが好き過ぎて、夜な夜な思い出して切なくなる。
- A君には彼女がいるので、この気持ちを伝えたいけど伝えられず、切ない。
- 仕事で会えない父に対し、一生懸命いい子に振舞う子の姿を見て切ない気持ちになる。
「寂しい・淋しい」の類語・言い換え表現
「寂しい」「淋しい」の類語にはどのような言葉があるのでしょうか。下記をご覧ください。
- 侘しい:ひどくもの静かでさびしい。心が慰められないさま。心細い。
- 物寂しい:なんとなくさびしい。うらさびしい。
- うら淋しい:なんとなく寂しい。もの寂しい。こころ寂しい。
- 孤独:仲間や身寄りがなく、ひとりぼっちであること
- 蕭索たる:ものさびしいさま
状況によっては、類語を用いた方がよりその状況や気持ちを表現できることもありますので、状況に応じて適切に言い換えましょう。
【例文】
- 誰もいない食卓で、一人侘しく夕食をとる。
- シーズンが過ぎたプールは、なんだか物寂しい。
- 私は両親を亡くし、一人っ子なので孤独だ。
- 木一本も生えておらず、蕭索たる現場だった。
さいごに
ここでは「寂しい」「淋しい」の違い・使い分け方、それぞれの意味や使い方についてお伝えしましたが、いかがでしょうか。
「寂しい」「淋しい」の意味は基本的には同じですが、状況や様子を表す際には「寂しい」、感情的な気持ちは「淋しい」を使うことがわかりましたね。
この機会に覚えておいてくださいね。