突然ですが、「物々しい」の意味はご存知ですか?
テレビのニュースで、リポーターが事故や事件現場の様子を伝えるときに「現場は物々しい雰囲気に包まれています」と表現することがあります。
また、大統領が訪日したときに「市内は物々しい警備です」「空港が物々しい空気に…」と厳重な警備が敷かれた状況を伝えたりしますよね。
ここでは「物々しい」の意味や使い方、語源について詳しく解説します。「物々しい雰囲気」の表す状況や類語についても紹介するので参考にしてくださいね。
「物々しい」の意味・使い方
「物々しい」の読み方は「ものものしい」です。
「物々しい」には「(1)重々しくきびしい。いかめしい。また、大げさである」と「(2)容姿・態度などが堂々としている。威厳がある」の二つの意味があります。
※「いかめしい」は「厳めしい」と書き、「厳かで重々しい」「厳重である」といった意味があります。
つまり、「物々しい雰囲気」は(1)の意味で使われることから、「重々しく厳しい雰囲気」「いかめしい雰囲気」「大げさな雰囲気」といえます。
意味を読み取るときは、「厳重な雰囲気」と「大げさな雰囲気」のどちらの意味で使われているかについて、全体の文脈から判断する必要があります。
まずは「厳重」という意味で説明するときの例文を下記にお伝えします。
【例文:厳重】
- 事件現場の周辺は厳重な警備体制が敷かれ、物々しい雰囲気に包まれていた。
- 物々しい雰囲気のなか、事情を説明しなくてはならない。
- 要人の来日に際して、空港付近は物々しい警備が敷かれた。
これらの例文は厳重な様子を表しています。
なお、「物々しい建物」「物々しい警備」といった使われ方をするときは「堂々とした」「大げさな」という意味合いになります。
【例文:大げさな】
- 名前だけは物々しい、安普請の建物である。
- ゴシック様式の建築は、いかにも物々しい佇まいだった。
- 物々しい対応が、かえって滑稽に感じられた。
4.は粗雑で安っぽいビルなのに、いかにも大げさな名前がついている建物ということですね。
「物々しい」の語源
「物々しい」の語源は古文に出てくる「物し(ものし)」という言葉が関わっています。
「物し」には「不愉快だ。目障りだ。気にくわない」や「不気味。不吉」という意味があります。「物し」から派生して、古語の「物々し」という言葉ができました。
清少納言の枕草子にも「いと物々しく、きよげに(たいそう重々しく、美しい感じで)」と、今とほぼ同じ意味で出てきます。
源氏の産みの母である桐壷をいじめぬいた弘徽殿の女御が、亡き母桐壷にそっくりな藤壺になついている幼い光源氏を見て、「もとよりの憎さも立ち出でて、ものしと思したり(一時忘れていた憎しみもよみがえってきて、源氏を目障りだと思うようになっていた)」と気持ちを表現していたのです。
「ものし(目障りだ、不快だ)」から、「ものものし(重々しい、おおげさだ)」というふうに言葉の意味が転じていったことがわかります。
「物々しい雰囲気」とは
つづいては、「物々しい」の理解を深めるために、例文と意味を紹介していきます。
- バッキンガム宮殿の衛兵が、物々しい出で立ちで直立していた。
⇒堂々として威厳のある様子を表しています。 - 国境付近には、物々しい装備の兵士たちが立ち並んでいた。
⇒紛争地帯の緊迫した雰囲気が伝わってきます。「物々しい」という言葉で、重装備で武器を携帯していることがわかります。 - 指定された場所へ行ってみると、物々しい門構えに、私はびっくりしてしまった。
⇒古い造りの堂々とした建築様式の門に、圧倒されている雰囲気を表しています。 - 黒く物々しい雲が、あたりを威圧するように、湧き上がっていた。
⇒黒い、発達した積乱雲が目に浮かんできます。不気味さも感じられます。 - 題名は物々しいが、中身はいろんな本の寄せ集めだ。
⇒ここでは「おおげさ」だということですね。題名と内容のアンバランスさが伝わってきます。 - どうしたんだ、えらく物々しいいで立ちをしているな。
⇒普段とは違う、かしこまった格好をしている相手を、軽くからかう様子が伝わります。
このように「物々しい」という言葉には、威圧感や荘厳さとともに、実際はそれほどでもないのに、と大げさに思っている雰囲気が、文脈に応じて伝わってくることがわかります。
「物々しい」の類語
「物々しい」の類義語は下記のとおりです。
- 仰々しい
- 事々しい
- 殺伐とした
- 物騒な
- 大層な
- 刺々しい
なお、「いかめしい。厳重だ」という意味で使われる「物々しい警備」の類義語としては、
- 厳重な警備
- 手厚い警備
- 十重二十重(とえはたえ)の警備
と言い換えができます。
さいごに
「物々しい」という言葉は、語源を見てもわかるように、非常に古くから使われてきた言葉ですが、普段ニュースで耳にするほかは、ほとんど日常会話で使うことのない表現です。
しかし、例文でもおわかりのように、「物々しい」という言葉を使うことによって、その場の雰囲気が相手に伝わり、こちら側の思いや、そのときの感じ方までが伝わってきますね。
私たちは、つい「すごい」や「良かった」で済ましてしまいますが、「物々しい」という言葉のように、イメージを喚起する言葉を一語使うだけで、コミュニケーションはもっとずっと魅力的なものになっていくはずです。
このサイトでいろいろな言葉の意味や使い方を知り、語彙力を少しずつ増やしていって、コミュニケーションの達人になってくださいね。