ビジネス文章内で不安な点を書き表すために、「懸念」や「危惧」という言葉を使うことがあると思います。
一見似ている2つの言葉ですが、実は意味が違うのです。文章の格式が上がるからといって語意をあまり気にせず、なんとなく音の響きだけでこれらの言葉を使っていた人は要注意!もしかしたら、読み手にあなたの言いたいことが正確に伝わっていない可能性があります。
言葉の意味のとり違いで生じてしまう誤解を防ぐために、ここで「懸念」と「危惧」の言葉の違いや使い分け方をしっかり学んで、今後に活かしましょう。
「懸念」の意味・使い方
「懸念(けねん)」とは「気にかかって不安に思うこと」という意味です。
懸の字には「掛ける」という意味があることから「懸念」は、気持ち(=念)が引っかかっている、つまり不安事があるという意味になります。思いが引っかかって宙ぶらりんの、漠然とした心許ないさまをイメージするとわかりやすいでしょう。
似た言葉に「懸案(けんあん)」(意味:解決を迫られながら解決されずにある問題)という言葉がありますが、こちらも、同じように宙ぶらりんになっている状態を表しています。
【例文】
- 昨晩の大雨により、予期せぬ事故が懸念される。
- コーヒーの飲みすぎは体への悪影響が懸念される。
- グローバリゼーションにより、新型インフルエンザの流行が懸念されている。
- 冷戦期の懸念材料は、未だに水面下でくすぶり続けている。
「危惧」の意味・使い方
「危惧(きぐ)」とは「あやぶみおそれる」という意味です。
惧という漢字は本来、鳥が目をきょろきょろさせるさまを表しています。危はあぶないことを表します。2つの漢字を合わせると、危険な事柄を察知し、びくびく恐れている様子を表してます。
【例文】
- 将来を危惧する。
- 昨今の国際情勢に、一抹の危惧を抱く。
- チンパンジーは絶滅危惧種に指定された生き物である。
- 青少年への悪影響が危惧される書籍。
「懸念」「危惧」の違い
例文を見ていただくとわかる通り、「懸念」と「危惧」は互いに書き換えが可能である場合が多くあります。しかし、この2つの言葉は文章に異なるニュアンスを与えるため注意が必要です。
「懸念」という言葉は「漠然とした不安のイメージ」を表します。「懸念事項」という言葉が、この言葉の持つイメージを良く表しています。つまり、「本当にそれが問題になるかどうか今のところ分からないが、とりあえず不安に思う事」という意味です。
「危惧」は「明確に察知した不安のイメージ」を表します。おそれを察知して、おどおどした様子を表しているのがこの言葉の成り立ちなので、「すでに存在している不安」に対して使われる言葉です。
つまり、「危惧」という言葉を使った時の方が、読み手にはより差し迫ったリアリティのある不安・恐れが伝わります。反対に、「懸念」という言葉を使った場合は、読み手は断定しきれないぼんやりとした不安のイメージを持つことになります。
「懸念」の類義語・似た言葉
よく似た2つの言葉ですので、求める同義語は使うシーンによって異なります。「懸念」のような漠然とした不安を表す同義語は以下の通りです。
- 憂慮(ゆうりょ)
- 畏れ(おそれ)
- 不安
- 憂慮(ゆうりょ)
- 心配
- 物案じ(ものあんじ)
- 惧れる(おそれる)
- 怖れる(恐れる)
「危惧」のような明確なおそれを表す同義語は以下の通りです。
- 危懼(きく)
- 疑懼(ぎく)
- 危ぶむ
※懼は、惧の異体字として同じ意味を持っています
まとめ
「懸念」と「危惧」という2つの言葉は、一見すると同じような意味の印象を持ってしまいますが、実は細かいニュアンスでの違いがあります。
日常会話でここまでニュアンスの細部にこだわることは少ないかと思います。しかしビジネス文章などの意味のとり方が需要な書き言葉では十分注意したい使い分け方です。
2つの言葉の持つ意味の違いを理解して使うことで、文章の微妙なニュアンスの違いを作り出すことができる便利な使い分け方でもあります。