ビジネスシーンで目にする機会の多い「幸いです」という言葉は、相手に気遣いの気持ちを込めることができる便利なフレーズです。ところが、使う相手や場面を間違えると失礼な印象を与えてしまうこともあるので要注意です。
ここでは、「幸いです」の意味、使い方を紹介します。それぞれの状況にふさわしい言い回しを覚えられるよう、類語や同義語も例文をあげてお伝えしているので参考にしてくださいね。目上の方に送るときの「幸いに存じます」「幸甚に存じます」の文例もチェックしておきましょう。
目次
「幸いです」のビジネスでの意味
「幸い」とは「その人にとって望ましく、ありがたいこと」を意味します。ビジネスメールなどの文末で使う「幸いです」は、「嬉しく思います」「幸せに思います」という意味の謙譲語です。
相手に頼み事をしたり行動を促したりしたいとき、「〇〇してください」とストレートに表現するよりも柔らかい印象を与えることができるため、ビジネスシーンでは有用な言葉です。なお、「〇〇していただけると幸いです」は、「〇〇していただけると嬉しいです」に言い換えることができます。
「幸いです」の使い方・例文
メールの用件別に、「幸いです」の使い方をまとめました。下表を参考にして使い方をマスターしてくださいね。
用件 | 例文 |
期日中の対応を求めるとき | 〇月〇日(〇)までにご連絡いただければ幸いです。 |
前向きに検討してほしいとき | ご検討いただけますと幸いです。 |
アドバイスが欲しいとき | 業務の進め方につきまして、ご助言いただけますと幸いです。 |
教えてほしいとき | ご教示いただけますと幸いです。 |
連絡が欲しいとき | ご確認の上、ご連絡いただければ幸いです。 |
対応してほしいとき | 〇〇の件につきまして、ご対応いただけますと幸いです。 |
確認してほしいとき | 添付ファイルにてデータをお送りしましたので、ご参照いただけると幸いです。 |
感謝されたとき | 〇〇様のお役に立つことができて幸いです。 |
物を贈るとき | 〇〇様のお口に合えば幸いです。 |
好意を伝えるとき | 気に入っていただければ幸いです。 |
結婚式の品物 | ご笑納くだされば幸いです。 |
「幸いです」は、「いただければ(くだされば)」「いただけますと(くださると)」と組み合わせるのが基本です。
クッション言葉と「幸いです」を組み合わせると丁寧な表現になる
クッション言葉とは、相手にお願いをしたいとき、ストレートに伝えるときつくなりがちな表現を和らげる働きをもつ言葉のことです。自分の気持ちをへりくだって伝える「幸いです」とクッション言葉を組み合わせることによって、より丁寧で柔らかい印象を与えてくれます。下記の例文の太字の箇所がクッション言葉です。
- お手数をおかけしますが、ご対応いただけますと幸いです。
- 恐れ入りますが、ご配慮いただければ幸いです。
- 大変恐縮ですが、下記条件でご一考いただければ幸いです。
- 誠に申し上げにくいことですが、数量を変更いただければ幸いです。
- 勝手なお願いで申し訳ないのですが、ご協力いただけますと幸いです。
- 差し支えなければ、解約のご理由をお聞かせくださると幸いです。
- ご面倒をおかけしますが、お手続きいただけると幸いです。
- 重ね重ね申し訳ありませんが、もう一度書面をお送りいただけると幸いです。
- 厚かましいお願いとは存じますが、ご面談の機会をいただけますと幸いです。
- 不躾なお願いで失礼ですが、資料をご覧いただけますと幸いです。
ビジネスメールは冷たい印象になりがちのため、クッション言葉を使って相手への配慮や気遣いを示しましょう。
「幸いです」を目上の方に使うときの2つの注意点
「幸いです」は、相手にお願い事をするときに使える便利な言葉ですが、次の2つの点に留意しておく必要があります。
注意点(1)曖昧な表現のため確約はできない
「幸いです」は「〇〇していただけると嬉しいです」という意味のため、裏を返せば、するか否かの判断は相手に委ねてしまうことになります。そのため、相手に行動を要求するときや、期日が差し迫った急な用事の際は、「幸いです」の表現を避けたほうが無難です。
注意点(2)目上の方に失礼な印象を与えることも
「幸いです」は敬語であり謙譲語のため、目上の方に使っても失礼にはあたりません。ところが、相手によって、もしくは場面によってはカジュアルな印象を受ける場合もあります。そういうときは「幸いに存じます」「幸甚に存じます」という表現を使いましょう。
「存ず」は「思う」の謙譲語、「幸甚(こうじん)」は「この上もない幸せ、大変ありがたいこと」を意味し、より丁寧な表現となります。
「幸いです」のその他の類語・言い換えフレーズ・例文
相手や場面に応じて「幸いです」の表現を上手く使い分けることが重要です。ここでは、「幸いです」の類語や言い換え表現についてお伝えします。下表を参考にしてください。
類語・言い換えフレーズ | フォーマル度 | 相手 |
してもらえませんか | ★☆☆☆☆ | 社内・同僚・ 部下・後輩 |
助かります | ★☆☆☆☆ | |
お願いできますか | ★☆☆☆☆ | |
嬉しいです | ★★☆☆☆ | |
していただけますか | ★★☆☆☆ | |
願えませんでしょうか | ★★☆☆☆ | |
ご依頼できますでしょうか | ★★★☆☆ | 上司・社外 |
お願いできませんでしょうか | ★★★☆☆ | |
していただけませんでしょうか | ★★★☆☆ | |
幸いです | ★★★☆☆ | |
お願いしたく存じます | ★★★★☆ | 目上 |
していただきたく存じます | ★★★★☆ | |
幸いに存じます | ★★★★☆ | |
いただきたくお願い申し上げます | ★★★★★ | |
いただきたくご依頼申し上げます | ★★★★★ | |
幸甚に存じます | ★★★★★ |
ややカジュアルな表現
してもらえませんか
- 有給休暇の申請は早めに出してもらえませんか
- 書類を提出してもらえませんか
社内のやりとりで主に使います。尊敬の表現ではないので注意しなくてはなりません。
助かります
- 教えていただけると助かります
- お送りいただけると助かります
「幸いです」よりもストレートな表現のため、社外の方に使うのは相応しくありません。親しい間柄の同僚などに使いましょう。
お願いできますか
- 納品日の変更をお願いできますか
- 顧客へのご対応をお願いできますか
お願いできるかどうか、諾否を問うフレーズです。「できますか」という疑問形にし、ソフトに伝えます。
嬉しいです
- 打ち合わせのお時間をいただけると嬉しいです
- お役に立つことができて嬉しいです
「幸いです」の同義語であり、言い換え表現に最も近い言葉です。カジュアルな印象を与えるため、使用範囲は社内のみです。
していただけますか
- 面談日時を〇時から〇時に変更していただけますか
- 各自、会議資料を持参していただけますか
「していただく」は「してもらう」の謙譲語。問いかける形で依頼しているものの「もし可能なら」というニュアンスは弱めです。
願えませんでしょうか
- 貴社のカタログをお送り願えませんでしょうか
- 見積書をお送り願えませんでしょうか
相手に「無理を言って申し訳ない」という謙虚な姿勢を感じさせ、柔らかみのあるニュアンスになります。
セミフォーマルな表現
ご依頼できますでしょうか
- 新規の発注をご依頼できますでしょうか
- 注文書の送付をご依頼できますでしょうか
相手に問いかける言い回しで控えめな表現です。ただし、相手によっては強制されているようにもとれるので相手を見て使うよう注意しましょう。
お願いできませんでしょうか
- 恐れ入りますが、早期のご対応をお願いできませんでしょうか
- パンフレットのご送付をお願いできませんでしょうか
相手に手間をかけることを依頼するときのフレーズ。相手にとっては断ることもできる言い回しになっています。
していただけませんでしょうか
- カタログと価格表をお送りいただけませんでしょうか
- 一週間のご猶予をいただけませんでしょうか
「していただけますか」よりも相手への配慮を示す、丁寧な言い方です。こちらの都合を優先してお願いするときに使います。
幸いです
- ご教示いただけますと幸いです
- お力添えいただけますと幸いです
押しつけがましくないソフトな表現のため、相手にとっても断りやすい表現です。
フォーマルな表現
お願いしたく存じます
- 請求書のご送付をお願いしたく存じます
- 早急にご手配をお願いしたく存じます
促したい行為を相手に直接働きかけていますが、尋ねる形にすることで押し付けるような印象を軽減させています。
していただきたく存じます
- お知り合いの方をご紹介いただきたく存じます
- 下記条件による見積書をお送りいただきたく存じます
丁寧な言い回しをしていますが、「幸いです」とは違って強制力のある言い切り形の表現です。
幸いに存じます
- ご了承いただければ幸いに存じます
- ご来社いただければ幸いに存じます
「幸いです」のより丁寧な表現です。目上の方や上司に伝える表現として使えるため便利です。
いただきたくお願い申し上げます
- ご紹介いただきたくお願い申し上げます
- ご出品いただきたくお願い申し上げます
正式な依頼であることを伝える言い回しです。相手に前向きに検討してもらえるよう、趣旨や条件を明記しましょう。
幸甚に存じます
- お気に召していただけましたら幸甚に存じます
- ご受納くださると幸甚に存じます
「幸いです」の最上級の言い換え表現です。目上の方に送るときや、フォーマルな文書・メールを書くときに使える言葉です。
さいごに
ここでは「幸いです」の意味や使い方、言い換え表現について解説しましたが、理解を深めることはできましたか?
相手にお願いをするときの様々な表現を上手に使いこなすことにより、人間関係を円滑にし、仕事をスムーズに進められるようになるはずです。
「幸いです」「幸いに存じます」「幸甚に存じます」を基本軸とし、活用していきましょう。